日本とは何かを語れなければ、日本の役割は議論できない

村上隆インタビュー


--日本人アーティストの作品が世界で評価されにくいのは、評価基準の違いによるもの?

評価基準が日本と海外とで違うのは自明のことで、その基準をどこに置くのかが争点でしょう。たとえば平山郁夫氏の人気シリーズ『シルクロード』のように日本人のローカルな興味、自己発見ドラマにつながったものは、決してインターナショナルなテーマではない。それを世界言語に翻訳したとしても、日本でのインパクトほどにはなりません。

--経済危機やテロとの戦いの中で、世界における日本の役割とは。

日本国民にとって、国家をアイデンティティすることははたして重要な問題なのか、まずそこからの議論です。日本国民であることに誇りや意味をどれだけ感じているのか。日本とは何かを語れる人間はどれほどいるのだろうか。もしくは語る意味があるのか。アイデンティティが不明確なままなぜ「世界における日本の役割」を議論できるのか。ナンセンスです。私は、日本で住み暮らす人間の最大の武器は「優しい心」だと思います。アイデンティティがなくても、隣人を愛する優しさはこの国土に住む者へなぜかあてがわれている不思議な力なのです。その優しさの意味を徹底的に研究し、国際社会での日本国民の役割をキャラクタライズすれば、もっと皆にありがたがられる存在になるはずです。テロにしても、イソップの寓話、『北風と太陽』を思い出せばいい。強い風を吹き荒らしてもテロはなくなりません。われわれは太陽になればいいのです。

日本はアメリカの傀儡(かいらい)国家としての居場所に慣れすぎてしまい、すき間だらけのルールの中で恩恵を得る一部の人によってオーガナイズされています。しかしその恩恵も、実はささいなアメリカからのおこぼれにすぎない。一生懸命カネを稼いでも、自分たちの家族に財産も残せない。アートのコレクションのレベルの低さがそのひもじさを物語っています。決意すべきは税制の改革。社会のすき間を埋める作業です。そしてオールド・ジェネレーションに新しい起業を邪魔されないようにしなければいけない。経済界とは何かを私は知りもしませんが、はたから見ていて何ともまったりとした“いけてない”人間の集団に見えるのは、私だけではないはずです。

むらかみ・たかし
現代美術家。1962年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。日本以上に世界での知名度が高く、その作品はオークションでつねに高値で取引される。2007年より世界3カ国を巡回する大規模な回顧展を開催。若手アーティストの発表の場として来場者1万人規模のアートの祭典「GEISAI」を2002年よりほぼ毎年開催。
GEISAIホームページ:http://www.geisai.net/

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