トランプ大統領がパパブッシュから得た教訓 1期4年で終わった故ブッシュ大統領の「矜持」

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レーガン政権末期のブラックマンデーを何とか乗り切ったグリーンスパン議長は、パパブッシュ時代の景気後退では短期金利の誘導目標であるFFレートを、当時岩盤とされた3%まで下げた。だが、さらなる緩和策を期待したパパブッシュに対し、グリーンスパン議長は政治の圧力に屈することはなかった。(注、FFレートが政策金利になったのはポール・ボルカー議長以降)。

結果、景気回復は遅れ、1992年の大統領選には間に合わなかった。後年、パパブッシュは、グリーンスパン議長がもっと金利を下げていれば、自分は再選を果たしたはずだとして、最後までグリーンスパン氏を恨んでいた(NBOドキュメンタリーの41から)。

トランプ大統領の「独特の人事」とは?

ではトランプ大統領と現在のジェローム・パウエルFRB議長の関係はどうだろう。トランプ大統領は「株が下がるなら、それはFEDの利上げせいだ」としている。

これに対しては、反トランプ勢力は、FEDの独立性を脅かす大統領の越権行為だと批判する。まあ、これもトランプ大統領のお得意のプロレスでしかない。本当にFRB議長と大統領がガチンコで対立したのはリンドン・ジョンソン大統領とマクチェズニー議長ぐらいだろう。保守派からはボルカー氏と並び史上最高のFRB議長とされるマクチェズニー議長は、ベトナムでの戦争経済と健康保険制度の福祉政策の両方を断行したジョンソン政権の財政政策のインフレ予防処置として、金融政策ではタカ派を貫いた。

この政策に激怒したジョンソン大統領は、マクチェズニー議長をテキサスの自分の牧場へ呼び出し、議長の胸ぐらをつかんで金融政策の緩和を要求した。だが議長は譲らなかった。

トルーマン大統領からニクソン大統領まで、20年間にわたり、FRB議長として5人の大統領に使えたこのマクチェズニー氏の気骨を恐れたのはリチャード・ニクソン大統領だ。アイゼンハワー政権で副大統領を務めたニクソン氏は、最初の大統領選でジョン・F・ケネディ氏に惜敗したのは、マクチェズニー議長の金融政策のせいだと考えた。そこで2度目の挑戦で大統領になったニクソン氏は、マクチェズニー議長の後任に、自分の言うことを聞くアーサー・バーンズ氏を据えた。確かにバーンズ氏のジャブジャブ政策はニクソン大統領の再選をサポートした。だがカーター政権からレーガン政権にかけての未曽有のインフレの元凶となった。

そして表面的にはFEDの政策を批判するトランプ大統領は、FRB理事の最後の空席に、なんと政敵であるブルッキングス研究所の女性エコノミストを選んだ。このあたり、中国との交渉でも見せるトランプ大統領独特の人事だ。前面にライトハイザー氏の強面を据え、裏ではスティーブン・ムニューシン財務長官に全体のかじ取りをさせる。このあたりの妙が株価のマネジメントにどう影響するか。長期のメルトダウンは始まっている。あまりにも扱いが小さいので、今回は急遽パパブッシュを取り上げたが、重要な債券の話は次回へ繰り越ししたい。

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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