京成止めた台風塩害、応急処置は「拭き掃除」 6年前に対策開始も…「スピード遅かった」

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停電の主な原因を作ったのは、電柱に張り渡された高圧線と地上設備をつなぐ端末部分、ケーブルヘッドだった。ケーブルヘッドは通常は両端の端子が絶縁性能に優れたEP(エチレン・プロピレン)ゴムでカバーされ、雨水の浸入を防いでいる。

ショートした従来型のケーブルヘッド(左)はゴムカバーが燃え落ち、高圧線の端子がむき出しに。塩害対策を施した耐塩害特性のケーブルヘッド(右)は塩が積もってもショートしにくい材質になっている(筆者撮影)

天候による劣化が遅いことが特徴の材質で、鉄道だけでなく広く一般的に使われているが、ゴム表面についた雨水が流れにくいのが欠点だ。そこに台風が運んだ塩水が雪のように付着し、その塩水に微弱電流が流れることによってゴムが炭化していく。炭化したゴムカバーは放電により発火して焼け落ちる。

これに対して、塩害対策が施されたケーブルヘッドは、材質がシリコンゴムでつるつるしており、撥水性が高い。また、塩水が付着してゴムカバーの絶縁性が低下してもショートしない構造になっている。

2012年6月22日の台風4号で塩害被害が発生、これを契機に同社では耐塩害型ケーブルヘッドへの取り替えに着手していた。ただ、スピードが遅かった。6年経っても必要な1800カ所に対して300カ所の取り替えが終わっただけ。取り替えは海に近い線区(京成津田沼―千葉中央間)からスタートしていたが、台風はさらに奥へと塩水を運んだ。

ケーブルヘッドの交換は電気を止める必要があり、手間がかかる。完了時期を定めず、老朽化した箇所を順次更新していたのが現状だった。

経営判断がもう少し早ければ…

今回の全線運休を教訓に、同社が公表した恒久対策は、残り1500カ所のケーブルヘッドを、2019年度の可能な限り早い時期に塩害対策の施されたタイプに交換することだ。また、吹きさらしの空中に張り渡す架線方式から、線路の側溝(トラフ)に高圧配電線を格納する方式で、潮風や飛来物の影響が少なくする設置方法も検討する。

さらに、ケーブルヘッドと同じように塩水が蓄積することで今回の停電の原因を作った列車のパンタグラフ周辺や床下機器類についても、今後は塩害が想定される場合に点検を行い、清掃を実施する。駅舎用電源やヒューズも定期点検時に清掃を強化する。

まさに掃除に始まり掃除に終わる対策。現場の地道な奮闘には頭が下がるばかりだが、それにつけても経営陣の設備更新の判断がもう少し早ければ、トラブルは防げたかもしれないし、掃除の回数ももう少し減らすことができたかもしれない。京成電鉄の塩害による輸送障害。それにしても高くついた。

中島 みなみ 記者

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なかじま みなみ / Minami Nakajima

1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。

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