「無印良品×北欧×自動運転」の意外な仕掛け 2020年実用化のバスにデザイン提供した理由

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またフィンランドの高齢化率は約20%と、日本ほどではないが高齢化が進んでおり、ヘルシンキ市には約550万人と言われる全人口の1割以上、周辺都市を含めた都市圏人口では25%以上に達するという一極集中が進んでいる。国土面積も日本に近く、陸地の74%は森に覆われており、人口が日本の約20分の1にすぎないことを除けば、わが国との共通点は多い。

こうした状況を受けて、農村地域(フィンランドは気候や植生が理由で農業はあまり盛んではないが便宜上こう記す)での移動手段確保として、自動運転に注目している。こうした点が良品計画の考えと合致したのだろう。

世界初の全天候型自動運転バス

今回の良品計画の発表で目を引いたのは、Sensible 4が開発を進めている車両について、あらゆる気象条件下で機能する、世界初の全天候型自動運転バスと紹介していることだ。

北欧フィンランドの冬は当然ながら寒い。ヘルシンキの1月の平均最高気温は0度、最低気温はマイナス5度で、降水量は東京並みに少ないが、雪が降れば路面は凍結する。よって冬季はスパイクタイヤの使用が認められている。ヘルシンキはフィンランドの南端近くにあり、北に行けばさらに過酷な状況になる。

現在、世界中で自動運転車の実証実験が進んでいるが、多くは温暖な地域で行われている。自動運転車は車体に装着したセンサーで路面や周辺の情報を読み取りながら進む。よって大雨や霧、雪といった気象条件での自動運転は難しいと言われる。

しかしSensible 4は同社のウェブサイトによると、車輪の回転数や角度などもセンシングし、集中管理室で常に車両をチェックし続けることで、マイナス25度を下回る北極圏のラップランドでも安全に走れる技術を確立したという。またGachaシャトルバスは4WDとすることが発表されている。

フィンランドには他にも自動運転の研究開発を行う企業が複数存在する。その中から良品計画がSensible 4を選んだのは、あるイベントがきっかけだった。

「当社は2017年、フィンランドで毎年開催されている同国最大の家具、デザイン、インテリア見本市Habitare(ハビターレ)において、公共の自動運転車の構想を発表しました。それに呼応してくれた企業がSensible 4でした。無印良品が考える自動運転車の構想に深く理解・共感してくださり、開発技術を持つパートナーと出会えたことから今回の提携に至っております」

無印良品では国内外の有名デザイナーをプロダクトやグラフィックのデザインに起用するだけでなく、小池一子氏、須藤玲子氏、原研哉氏、深澤直人氏(50音順)の4人のクリエイターで構成されるアドバイザリーボードという組織によって、ブランドとしての考えをつねに検証している。

1980年に登場した無印良品のデザインが、創業以来一貫性があり、海外でも高い評価を受けている理由は、外部のクリエイターを経営に参画させるという、独特の体制が大きいのではないかと感じている。

ラウンド型のベンチシートが特徴のインテリア(写真:良品計画)

Gachaシャトルバスのデザインは社内で進められたというが、シンプルでありながら優しさや暖かさを感じるスタイリングやインテリアは、ほかの無印良品プロダクトの延長線上にあるものだ。

同車は2019年3月にプロトタイプをヘルシンキ近郊で一般公開したのち、同年上半期内をメドに、前述の3都市で実用試験運行を開始する予定だという。自動運転というととかく技術が注目されるなか、デザインでこの分野に参入した良品計画の動向は日本の自動車業界関係者にとっても興味深いはずだ。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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