美女いくさ 諸田玲子著
時代小説に強い読書家でも、主人公の小督(おごう)(江、江与ともいう)の名を知る人は少ないかもしれない。信長の妹・お市を母とする、つまり信長の姪「浅井三姉妹」の末娘。長姉の秀吉の側室・淀殿(茶々)に比べ、同じく数奇な運命をたどったわりに脇役扱いが多く、伝記類もない。その「空白」に挑戦したのが本書だ。
小督は3度結婚する。すべて信長の姪としての政略結婚。3度目の結婚で徳川(2代将軍)秀忠に嫁して、正室で唯一の徳川将軍(3代家光)の生母となり、天皇(明正天皇)も自らの係累(孫)とした。豊臣秀頼の正室・千姫の母にして、増上寺に葬られた徳川一門で唯一荼毘に付されるなど逸話豊富。崇源院として大奥でも権勢を振るった。
まだ海のものとも山のものともわからない前半生を丁寧に描く。新聞小説にありがちな同じエピソードがたびたび出てくるのは気になるが、その濃厚な歴史絵巻は圧巻であり、440ページを一気に読ませる。
中央公論新社 1890円
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