「話すこと」を重視しすぎた英語教育の末路 「読み・書き」の重要性を見直すべきだ

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さらに、英語を身に付けるには英語の文法を学ぶことは避けられません。過去30年間ないがしろにされてきた「読み・書き・文法」を学ぶことはとても重要なのです。もちろん、どう学ぶかといった方法は検討する必要がありますが、文法を知らずに外国語を話せるようにはなりません。

会話の授業ではよく、“How are you?” “I’m fine. Thank you, and you?”などといったお決まりのフレーズを使って練習をします。しかし、実世界ではここから会話が進み、その会話を続けるには、文法を知る必要があるのです。

Nice to meet youが「ナス3つ~」に

たとえば、“I had a fever last night. Do you know a good doctor?”(昨夜熱が出たんだけど、誰かいいお医者さんを知っている?)と友人に聞かれた場合、お決まりのフレーズだけで返答することはできないでしょう。「どれくらい熱があったの? ボクが幼いときから通っているいい医者が、君の家の近くにあるよ。連絡してからいくといいよ」などと伝えるには、文法を身に付けることが不可欠なのです。

移行期間として始まっている小学校の英語科でも、耳から聞いた英語を話したり、書いたり、読んだり、と文字での英語を導入していくことになっています。それはこれまでの小学校英語活動の成果から、この年代の子どもたちの教育には文字を使うことが効果的であると考えられたからです。同じやり取りを繰り返し行っても、英語を定着させるのは難しいですし、それ以前に子どもにとって面白くありません。

子どもは、自分の知っている音(母語にある音)に引き寄せて英語の音を理解しようとします。文字を用いないで授業を行っているとどうなるでしょう。小学3年生のO君は”Nice to meet you.”を「ナス3つ~」、 “What can I say?”を「わっかんないぜ~」と英語を日本語にはめ込んで覚えていました。なかなか上手なはめ込み方です。しかしながらこのように覚えていると、日本語とは異なる英語の音をきちんと身に付けることはできません。

また、書くことによって英語の語順に気づくことができます。つまり、日本語と英語の語順が違うことに気づくことができるのです。音声だけではこのような気づきは難しいでしょう。母語と英語とを相対化して身につけることができるとはこういうことです。わかっている母語を使用して英語を意識化することができるのです。文字を活用することは、子どもが自ら英語の語順や発音に気づき、英語を定着させることに有効なのです。

これまでの多くの日本人は母語習得や言語活動などについて、それほど意識的に考えてはこなかったでしょう。それは、日常生活の中で自然に身に付いてきたからです。しかし、現在の日本の子どもの状況を見ていると、意識して日本語を育むことは必要だと感じます。そして、豊かに母語を育むことが、将来的に英語を身に付け、使うことを可能にするのです。

木原 竜平 ラボ教育センター 教育事業局長

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きはら りゅうへい / Ryuhei Kihara

1987年、筑波大学卒業、ラボ教育センター入社。東京、名古屋、大阪にて営業、指導者研修を担当。2002年より東京本社にて、外国語習得、言語発達、異文化理解教育について専門家を交えての研究に携わる。日本発達心理学会会員。日本子育て学会会員。ラボ・パーティは1966年「ことばがこどもの未来をつくる」をスローガンに発足し、2016年に50周年を迎えた子ども英語教育のパイオニア的存在。
 

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