エルグランドがトヨタに勝てなくなった理由 かつての高級ミニバン王者はなぜ陥落したか

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一方、アルファードは、ミニバン本来の価値を愚直に拡張していった。

まず上級車種としての静粛性や乗り心地が、クラウンやセルシオ(レクサスLS)の価値同様に改善され続けた。また、2列目の座席の前後移動量を増やし、足元を広々とさせることにより、あたかもストレッチリムジンに乗車しているかのような心地よさを味わわせた。それを実現するため、2列目のキャプテンシート(一人掛け座席)の左右をいったん内側へ寄せ、後輪の出っ張りを避けて後ろへさらに下げられるような機構も編み出した。

そのような2列目の快適性向上は、仲間や家族連れの同乗者向けというより、要人のための後席空間といった趣を与え、会社役員や政治家、あるいはハイヤーとしての活用などにも魅力をもたらした。

後席の快適性向上や新たな用途開拓のほかに、あえて走行性能は標榜しないものの、世代を重ねるごとにアルファードの運転感覚はより操縦安定性の高いものになっていく。操縦安定性に優れなければ、後席の乗り心地が改善されず、何のために快適な後席空間を演出したかわからなくなるからだ。

2世代目になるとヴェルファイアが加わる

2008年の2世代目になると、アルファードのほかにヴェルファイアが加わる。実は、初代のアルファード時代にも、販売店網の違いによって車名のあとにGやVのアルファベットを付け区別していたのを、車名として分けたのである。

同時に、顔つきを大きく変えた。ヴェルファイアは、よりきつい顔つきにして押し出しを強くした。それはあたかも、軽自動車で人気を得るようになったメッキを多用するドヤ顔を真似るかのようであった。しかし、それが功を奏する。

軽自動車の場合も、実はそのドヤ顔的な車種を女性が好む傾向がある。それによって軽自動車の存在感を高め、小さなクルマだからと無視されにくくなり、被視認性が高まることで安全や安心につながる効果が生まれた。

上級ミニバンとして、より存在感を強めたい顧客の志向にヴェルファイアの顔つきが的中することになる。同時に、控えめで落ち着きを覚えさせるアルファードとの差別化ができた。

日産のエルグランドも、2010年の3世代目でいよいよFF化された。アルファード同様に後席の快適性がより充実された。だが、アル・ヴェルによって志向の異なる上級ミニバン客をすっかり獲得されてしまったあとでは、エルグランドの付け入る隙は限られていた。

現行アル・ヴェルの登場は2015年。非公式ながら次期エルグランドのフルモデルチェンジは2019年ごろと自動車系メディアが報じている。内外装のデザインや快適性の向上などのほか、コンパクトカー「ノート」や中級ミニバン「セレナ」で先行した「e-POWER」や「プロパイロット」など、いま日産が市場で注目される技術による低燃費や運転支援を実現する最新技術の投入などにより、大きく魅力を増さない限り、エルグランドは当面、アル・ヴェルに圧倒される展開が続くだろう。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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