スカパー!「プロ野球全試合放送」実現の裏側 今日開幕、知られざる放映権ビジネスの交渉

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今シーズン、DAZNが唯一獲得できなかったのが、巨人主催ゲームの放映権。その巨人主催ゲームをスカパー!では放送できるのは、巨人戦の放映権を日本テレビが独占しており、その日本テレビ系列のCS放送局・日テレジータスがスカパー!にあるからだ。

ちなみに、日本シリーズだけは、興行権をNPB(日本プロフェッショナルベースボールリーグ)が持っており、生中継の放映権は、原則全国ネットの在京キー局にしか売らず、CSに売るのは録画放送の権利となっている。

双方ともに関連番組に自信

スカパー!全体の契約件数は漸減傾向が続いているが、「プロ野球セットは伸びている」(小牧取締役)という(ただし具体的な件数推移は非開示)。

果たしてDAZNはスカパー!にとって脅威となるのか? スカパー!のプロ野球セットが月額3980円(税別、以下同)であるのに対し、DAZNは1750円。DAZNはプロ野球だけでなく、国内サッカーのJリーグ、国内男子バスケのBリーグ、サッカーのプレミアリーグなど他のスポーツコンテンツも含めてこの価格だ。巨人主催ゲームが見られないことがどの程度のハンディになるかは判断が分かれるところだが、価格だけで見ればDAZNが圧倒的に優位に見える。

その一方で、スカパー!はテレビ放送なので、インターネット放送のDAZNよりも中継の安定性は高いだろう。

テレビ放送のネックは外出先や出張先で視聴できないことだ。これをクリアすべく、スカパー!もPC、スマホ、タブレットでの視聴を追加料金なしで可能にしているが、広島戦、阪神戦、巨人の主催試合は対象外だ。

もっとも、スポーツ中継は、基本的にスマホではなく大きな画面で見る需要が高いため、DAZNもゲーム機など外部ディスプレーを接続してテレビで視聴する方法を推奨しているが、それでもネックになるのは通信環境だ。

スマホで契約している回線を使えば瞬く間に速度制限を受けることになるので、長時間の視聴はWi-Fi環境が整った場所に限られる。

スカパー!が最も自信を持っているのは、プロ野球関連番組のクオリティだ。「中でもフジテレビONEのプロ野球ニュースは中継よりも視聴率が高い」(小牧取締役)という。

DAZNもプロ野球関連番組を視聴者獲得の目玉と位置づけている。勝敗を分けるのは、中継ではなく関連番組なのかもしれない。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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