東芝、限定付き適正意見は「ありえないこと」 会計評論家の細野祐二氏、専門家の見解は?
――まさに「三方よし」なのが今回の「文学的限定付き適正意見」だと。
前任の新日本監査法人にとってもよいのが文学的限定付き適正意見だ。というのも、新日本が適正意見を付けた2016年3月期が実は不適正だったということになれば、金融庁は新日本にまた行政処分をしなければならない。2度目の行政処分は前回よりも重い「解散命令」にならざるをえない。
だから今回、新日本と金融庁との間では「金額表示のない限定付き適正なら、新日本への2回目の処分はしない。大丈夫だから」というやり取りがなされていたに違いない。一方で金融庁はPwCあらたに「限定付き適正でいいが、金額は特定するな。金額を特定したら受理しないぞ」と言い含めたのだろう。
2016年3月期に計上すべきだと知っていたとしたら、東芝の経営陣は特別背任罪に問われかねない。しかし今回の文学的限定付き適正意見で、その可能性もなくなったといえる。
原子力行政の問題だからだろうか
――「三方よし」どころか「五方よし」というわけですね。「文学的限定付き適正意見」の被害者は誰ですか?
一般の株式投資家だ。無担保の株に投資する者にとって唯一の担保は正しい情報だが、今回の決着で、2016年3月期と2017年3月期の正しい決算数字が永遠にわからないことになった。
有報の開示制度を壊したことも大きい。監査法人は本来、限定付き意見を出したいものだ。除外事項がない監査なんてありえないからだ。除外事項を直させようとしても、会社は監査法人のいうことをなかなか聞きたがらない。
限定付きとはいえ適正意見なので上場廃止基準にも抵触しないのだから、監査法人にとっては極めて居心地がいい。そこを我慢して、会社に何とか直してもらって無限定適正意見を出しているというのが現状だからだ。
今回の東芝の限定付き適正意見を受理したことで、限定付き適正意見がベンチャー企業を中心にバンバン出てきたら金融庁はどうするのだろうか。かつて粉飾をしたオリンパスやライブドアだって、監査法人が限定的適正意見を出すことを金融庁は許してこなかった。東芝に許されるならばかつてのオリンパスやライブドアにだって許されたはずだ。
――不正会計発覚から限定付き適正意見までの経緯を振り返ると、どうも「東芝を守る」という結論ありきだった印象があります。
粉飾の発覚から現在まで企業分析の視点から東芝を見てきたが、経済の論理では理解できない想定外のことが次々と起きた。おそらく今後も想定外のことが起き続けるのだろう。これは東芝問題の本質が企業経営の問題ではなく、原子力行政の問題だからなのだろうと今では思っている。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら