子供への性犯罪、元受刑者を追跡すべきか 再犯防止とプライバシー保護とのバランスは

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一番の問題は、元受刑者の更生の妨げにならないのかということですが、それ以上に、まだ犯罪を犯してもいない者に対して、犯罪を事前に予防するという名目で人権を制約することです。

このような警察の活動は捜査ともいえず、これを根拠づける規定もなく適正手続(憲法31条)からも問題です。権力による監視そのものであり、「犯罪を犯したが故に処罰(人権制限)する」という、これまでの国家の在り方を規制する憲法の観点とは全く異なる観点からの人権の制約になります。

再犯防止の目的、正しかったとしても権力濫用の可能性

確かに、元受刑者の承諾を得た上で面会を行うことは、再犯防止という観点からも有効性があるでしょう(背景として、保護観察制度が機能していないということもあります)。そして、「再び性犯罪を犯さないようにしよう」という、本人の真摯な同意があるのであれば、定期的な面談は問題ないと思います。

しかし、同意もなしに行うのであれば、そこにあるのは警察による監視だけです。性犯罪を犯した元受刑者について、明確に再犯を犯す予兆があるかどうか、適確に判断できるものではないでしょう。

これでは警察が常につきまとうことと同じであり、再犯防止という目的が正しかったとしても、権力の濫用の可能性(犯罪捜査や再犯防止に名を借りた国民監視)が常に存在しており、人権侵害行為と言わざるを得ません。このようなことが許されるということになれば対象犯罪が拡大していく可能性や、そもそも犯罪を犯す可能性というだけで特定の者の監視を認めることに通じかねません。

警察が居場所を把握するという対応は、性犯罪が発生した場合、被疑者検挙のために前に同種前科がある者を耐えず所在確認をしているだけともいえ、再犯防止に役立っているとはいえないでしょう。

GPSの装着を義務づけや居住制限をすることを求める声もあるようですが、刑期を終えた者に対し、どこにいるのかを常時、国家が監視するものであり、一般的な再犯率の高さだけを理由に合理化することは困難だと考えられます。

猪野 亨(いの・とおる)弁護士
今時の司法「改革」、弁護士人口激増、法科大学院制度、裁判員制度のすべてに反対する活動をしている。日々、ブログで政治的な意見を発信している。
事務所名:いの法律事務所

 

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