不振のAV業界で彼女たちに起こっていること 「親公認」は売れるための必須条件だ
撮影でのセックスに女としての悦びを知ることはなかったが、「ファンの顔を見ると”この喜びのためにやっているんだな”って思った」と希美は語る。舞台やテレビのバラエティ番組にも出演した。アイドルの夢をAV業界で叶え、体験した希美は取材の半年前、専属メーカーとの契約終了と同時に引退をした。思い残すことはないという。引退後、母親は「頑張ったね、お疲れさま」そう彼女に告げた。
当然、希美のようにアイドル活動ができるのは諸条件が揃った限られたエリート女優だ。そのごく一部の女優に強い光が当てられ、注目されているだけかもしれない。しかしほんの10年前には上位層ですら親にAVに出ていることを打ち明け、そのエピソードを取材で明かしてくれる者は少なかった、これもまた事実である。
「エッチな仕事」から「表現者」へ
また女性たちの「アイドルになりたい」という気持ちを搾取することがAV強要問題の要因になるという見方もある。しかし一方で自ら納得し、自己実現の形としてAV女優という道を選び、職業として向き合っている女性もいる。当然その道のりは平坦ではないし、複雑な家庭環境や経済的困難を抱えた例もあるが、たくましく生きる彼女たちの姿には取材した私も力を与えられた。不運と不幸は違うと思った。中には自分の常識を超えたエピソードもあり、そもそも「普通」とはなんだろう、世間の目とはなにか、そう考えて立ち止まることもしばしばあった。親や周囲の反対、結婚や就職などの人生の選択肢を狭めるリスクを引き受けてもなおも彼女たちが進む道の先には何があるのか。そして親の立場では「娘がAV女優になる」という自分の常識や価値観では想像がつかない事態がいざ目の前に提示されたとき、人はどう動くのか。それらを彼女たちの言葉と共に記してきた。
かつては「やりたくない仕事」として女性が裸になり、対価を得た時代から自らの意志で脱ぎ、親や周囲も認め応援するようになったAV女優という職業。「今はAVって軽い気持ちでやるもんじゃないと思ってる。1本出たくらいでAV女優を名乗らないでほしい」これは本書に登場するひとりのAV女優の言葉だ。単に男性を射精させる「エッチなお仕事」から「表現者」としての意識が一連の強要問題の解決への糸口になるとも筆者は考える。その価値観の変化の中で見える個々が抱く自己肯定感、割り切れなさや葛藤、善悪や白黒だけでは割り切れぬ価値観を孕む世界の複雑さ、それゆえの強力な魅力をAV女優たちの等身大の言葉と共に伝えられたらと思う。
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