32歳崖っぷち女子が発見!「婚活勝利の法則」 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<11>
そう、原因は分かっている。あの物語のトンボみたいな男、正木のせいなのだ。それを意識すると、杏子の胸のあたりは、キュッと切なく締め付けられた。
「どうしたんですか、そんなに悲しそうな顔して。いつもの勢いがないですね」。直人は、いつもの丁寧だが愛嬌のない口調で言った。「ご連絡した、新しいオファーの方の資料はご覧になりました?なかなか良い方だと思いますよ。ほら、こちらです」。
複数同時進行は、婚活に於いては「常識」という事実
杏子は生気なく、直人の提示したプロフィールシートに視線を落とす。
そこには、細い目、細い眉、細い唇をした、幸の薄そうな顔をした男の写真があった。一本の線だけですべて書けてしまいそうな顔だ。ジャニーズ顔をした正木の顔とは、全く異なる。
「私、また新しい人と会わないといけないんですか?」
「だって、正木さんから連絡がないのでしょう?その場合は、同時進行で他の男性とも婚活に励むことをお勧めしますよ。ただ、正木さんが気になるなら、前回のように、杏子さんからも連絡をしてみたらいかがですか?」
「……だって、急患か何かでお忙しいだけかも知れないし、正木さんから連絡するって言われたんです。また会おうねって。それに……」
「それに?」
「いいえ、何でもありません……」
「そうですか。まぁ、だいたい想像はつきますけどね」
「え?!べ、別に、私たちはイヤらしいことなんて、してませんよ?!」
杏子は顔が赤くなる。直人からの的確なアドバイスは欲しいが、実は正木に抱きしめられたと告白するのは、何となく恥ずかしかった。
「まぁ、何かあったにせよ、相談所を使って婚活をしている方というのは、同時進行で複数とマッチングを行うのは普通のことなんです。受験や就職活動と同じです。だから、杏子さんもそこは割り切って、きちんと活動してください」。直人は、平然と言ってのけた。
「え?でも、それって、複数同時にデートをするって意味ですか?」
「相談所に交際報告をしない限りは、そうなりますね。付き合い方があまりに不謹慎な場合は、相談所から警告しますが、ある程度は自己責任です」
「そんな……。じゃあ、正木さんも、他の方ともデートしているってことですか?」
「個人情報ですので、私から調べたりすることは出来ませんが、あくまでその可能性はあります」