南シナ海判決でアジアは戦争に一歩近づいた 大統領選挙中の米国を、アテにはできない

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

こうした背景からすれば、米国が自国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備を決めたのは、全くもって納得がいく。しかし、そのようなシステムは防衛を目的にしているにもかかわらず、それ自体が緊張を高めてしまう。

そういった意味で現在は、北朝鮮の当局や機関に新たな制裁を課すにはベストな時期ではないのかもしれない。制裁を受け北朝鮮は、国連を通じて唯一残っていた米政府との外交ルートを断絶させると表明した。短期的に考えれば、現在北朝鮮に拘束されている2人の米国人をめぐる状況は悪化するだろう。長期的に見ても、あらゆる危機への対処は困難になるだろう。これが良いことであるはずはない。

北朝鮮を扱う鍵は、同国唯一の支援者である中国だ。中国が北朝鮮をコントロールする能力は常に限定的で不完全ではあるが、経済などの面では影響力を有している。

問題は中国が、近隣諸国や米国との関係を急速に悪化させていることだ。中国との全面的な紛争が起こる可能性は、北朝鮮をめぐる限定的な戦争が勃発するよりも低いが、破壊的なものにはなるだろう。

世界有数の貿易・輸出大国である中国は、北朝鮮のような国際的孤立を望んではいないだろう。しかし、同国には大いなる野望や増大しつつある軍事力、そして国内での正当性を保つため、かつてないほどの地政学的な力を求める政府が存在しているのだ。

南シナ海めぐる裁判所判決は間が悪い

南沙諸島で監視活動を行う中国海軍。2月撮影。提供写真(2016年 ロイター/Stringer/File Photo)

その点で、南シナ海の管轄権をめぐってハーグの国際仲裁裁判所が今週下した決定は、良くない意味でターニングポイントのようなものになるかもしれない。中国は決定には妥当性がほとんどないと主張し、仲裁手続きを受け入れない姿勢を示した。

だが、大半の諸国はこの問題を真剣に捉えている。そして裁判所は容赦なく、南シナ海に関する中国の主張をほとんど退けた。

中国が、論議の対象となっている島や浅瀬に配備している部隊を近いうちに撤収させる公算はほとんどない。しかし、仲裁裁判所の決定を受けフィリピンなどの国々が自信を強めてアグレッシブになれば、結果として、情勢はひどく不安定になるかもしれない。

次ページアジアと欧州、どちらが危険なのか?
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事