南紀白浜、温泉以外でも楽しめる観光地に町ぐるみで変身中《特集・日本人の旅》
和歌山県白浜町は「南紀白浜」と呼ばれ、美しい海岸線と豊富な温泉を擁する。この関西屈指の温泉リゾート地で、「1泊朝食付き」で「夕食は27もの食事が自由に選べる」という旅行商品が話題を呼んでいる。
旅行業界最大手のJTBが打ち出した「白浜Style」がそれだ。2008年10月の発売直後から問い合わせが殺到、09年3月までの予定を9月末まで延長するなど、JTB側は思わぬ反応に手応えを感じているようだ。
このプランは「1泊1食(朝食)」が基本で、料金は旅館によって異なるが7700円から1万円強がメイン。夕食は宿泊先で食べてもいいが、白浜町内の別の旅館や飲食店を自由に選ぶことができるのが特長だ。このようなパターンは全国でも白浜だけで、「泊食分離」を明確に打ち出した初めての商品である。
このような商品を生み出した背景には、観光客側の変化がある。JTB西日本の高崎邦子・広報室長は、「特定の観光地に行くだけでは満足せず、そこで何ができるかまで、深く考える観光客が増えてきたようだ」と説明する。
これまでの温泉旅行は、いったん宿に入ったら食事もすべてその宿で済ませ、思い出といったら旅館のことばかり、というパターンばかりだった。そうではなく、旅館の外に出て、地域の人ともっと触れ合い、かつそこでしか食べられないものを食べたい--。こうした要望を訴える観光客が現実に増えている。
JTBが07年に実施した調査によると、国内旅行では「食事が第一目的」との回答は20・9%。その一方で、「第一目的ではない」との回答が38・1%と上回った。さらに、「宿泊は旅館、食事は街のレストランなどで自由に取りたい」との回答は70%以上にも上った。
こうした要望をかなえる場所を調べたところ、条件にかなったのが南紀白浜だった。「宿泊場所などのインフラ、歩ける範囲の町並みを持ち、特産品を中心に幅広い食事が可能となると白浜しかなかった」(高崎氏)。白浜は、白良浜(しららはま)という1キロメートル弱の美しい海岸を中心に旅館・ホテル群が立ち並び、町なかの飲食店も充実している点が、プラン立案にはぴったりだったという。
実際、白浜町の観光業全体が「泊食分離」に積極的というわけではない。白浜温泉旅館協同組合の片田隆通・事務局長は、「旅館としてはやはり泊まって、食事を含めた白浜の魅力を十分に味わってもらいたい」と本音を打ち明けるが、それでも「宿泊であれ日帰りであれ、白浜リピーターになってくれれば大歓迎」と強調する。まずは白浜の魅力に触れてもらうことが重要なのだという。だからこそ、観光客には積極的に町に出てもらえるような仕組みをつねに考えており、「脱・旅館オンリー」という点ではJTB側の取り組みと一致する。