日本銀行を創った男 渡辺房男著
1881年から16年間も大蔵卿・蔵相を務め、日本銀行創設と紙幣整理の強行でインフレを解消した松方正義は、紛れもなく日本資本主義の基礎を作った功労者の一人である。物語は西南の役での明治政府の多大な軍事出費に苦慮する42歳から紙幣整理にメドをつけた51歳まで脂の乗った財政家としての苦闘ぶりをたどっている。中央銀行の重要性を欧州に学び貨幣供給の一元的支配へ情熱を燃やした松方は、戦費調達と全国各地の国立銀行の紙幣乱発によるインフレを封じ込めようとするが、必然的にそれはデフレを招いた。
苦衷や葛藤と立ち向かいつつ、たぐいまれな信念によって志を成し遂げたその生き様は、デフレ下の財政破綻という現代にも多くの示唆を与えてくれる。財政、通貨、為替、景況への言及が詳細を極めていて、松方の人間性も十分書き込まれてはいるものの、読者が感情移入するような小説としての面白さがその分やや薄れた感は否めない。(純)
文芸春秋 1680円
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