【産業天気図・鉄道/バス】鉄道の出足順調だが、業績は高原弱含み

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2007年度後半から08年度前半にかけて、鉄道業界は収益的には「曇り」が続きそうだ。
 08年3月期第1四半期の実績は、私鉄大手13社(非上場の西武ホールディングスを除き、阪急阪神ホールディングス<9042>は旧阪神電鉄を前期初から経営統合したとして比較)合計で、売上高1兆6871億円(前年同期比0.3%減)、営業利益1504億円(同0.0%減)、経常利益1301億円(同3.1%増)、四半期利益741億円(同2.2%減)だった。鉄道の第1四半期は除却費などがあまり発生しないので、通期見通しに比べてよい数字になりやすいが、それでも出足としては堅調と言える。会社発表の通期見通しでは南海電気鉄道<9044>を除く、12社が営業減益を見込んでいるが、第1四半期では東武鉄道<9001>、小田急電鉄<9007>など6社が営業増益となった。
 順調な出足と見るのは、収益基盤の鉄道事業で輸送人員が好天や堅調な景気動向、沿線人口の増加などに支えられて、一部関西の会社を除いて想定を上回る伸びを見せているためだ。共通ICカード「パスモ」を導入した関東大手7社の場合は導入に伴う計上方法の変更で、輸送人員が増加するという要因もあったが、それを除いても東京急行電鉄<9005>、京王電鉄<9008>、東武鉄道などは2%程度の伸びを確保している。ただ、こうした中で西日本鉄道<9031>が、主力のバス事業での燃料軽油高、伸び盛りの航空貨物事業の変調、流通の競争激化から第1四半期減益に止まらず、通期減益幅拡大という形で、業績の減額を発表した。他の減益会社と様相を異にしていることは確かだ。
 上場JR3社(東日本旅客鉄道<9020>、西日本旅客鉄道<9021>、東海旅客鉄道<9022>)合計の第1四半期業績は、売上高1兆3353億円(同2.5%増)、営業利益2898億円(同7.2%増)、経常利益2194億円(同6.2%増)、四半期利益1275億円(同4.6%増)と好調だった。JR西日本は減益となったが、JR東日本は好天や前年のダイヤ改正効果などから、またJR東海はドル箱の東海道新幹線が横ばい想定を4%上回る好調さで、快調に営業利益を伸ばした。
 私鉄大手各社が2008年3月期で営業減益を見込んでいるのは、鉄道事業でパスモ導入(関東圏)や車両更新、安全投資の拡大などに伴って減価償却費が増加すること、それにマンションなど不動産販売が端境期などで反落すると見ているためだ。しかし、鉄道業界の”クセ”として、期初見通しは低めの数字を出す傾向が強いことや、輸送人員の堅調が続いていたことから、『会社四季報』では前号(07年夏号)において8社で会社見通しを上回る業績予想を掲げていた。このため、第1四半期の順調な出足も織り込み済み。『四季報』秋号で営業利益が増額されたのは、阪急阪神ホールディングス、京浜急行電鉄<9006>の2社に止まった。
 現時点で、『四季報』の08年3月期私鉄大手13社業績予想は、売上高7兆1283億円(前期比0.9%減)、営業利益5171億円(同9.3%減)、経常利益4079億円(同14.9%減)、純益2342億円(同13.3%減)であり、会社予想の営業利益合計より101億円多く見込んでいる。
 JR3社の通期業績については、『四季報』秋号で、期初から会社予想を上回っていたJR東日本と、JR東海の2社を増額した。JR東日本は鉄道の好調に加えて、一部休止していた駅売店のキオスクの再開や転換が順調に進んだことから、リストラ効果が早期に発現している。10月からは東京駅八重洲口の再開発ビル2棟や、「品川エキュート」、東京駅地下「グランスタ」の大型駅ナカ商業施設も寄与してくる。
 『四季報』ではJR3社合計の通期業績を、売上高5兆4890億円(同1.4%増)、営業利益9550億円(同1.1%減)、経常利益6615億円(同3.2%増)、純益3858億円(同4.3%増)と見ており、営業利益は依然減益予想だが、前号より190億円増額した。
 08年度前半については、JR3社はJR東日本で再開発ビルや大型駅ナカ施設の貢献が続くことなどから、順調な業績推移が見込まれるが、私鉄大手については輸送人員でそうそう好天効果も望めず、景気動向についても予断を許さない状況が生まれてきている。また、安全投資や車両更新など高水準の設備投資から減価償却負担もすぐには減少しにくいだけに、業績は大きく好転するとは考えにくく、高原横ばいの様相が続くと見られる。
【中川 和彦記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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