日本の保育園はなぜ、「保育士"あと1人"」が足りないのか?「保育園事故」過去最多が示す悲惨な現場、劣悪な労働環境が抱える【深刻なジレンマ】

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さらに年齢別の事故件数を見ると、2024年度は0歳が4件、1歳が59件、2歳が135件、4歳が302件、5歳が474件、未就学児の6歳は266件となっている。子どもの活動の変化もあるだろうが、6歳を除き配置基準が手薄になっていく年齢になるにつれ、事故が増えていると見ることもできる。

保育の安全や質を守るため、8月には都内で「日本の保育士配置基準を世界水準に!」をテーマにしたシンポジウムが開催された。主催したのは「『子どもたちにもう1人保育士を!』を求める学識者の会」で、研究者や弁護士らが呼びかけ人となっている。

「日本の保育士配置基準を世界水準に!」をテーマにしたシンポジウム
保育シンポジウム(筆者撮影)

シンポジウムでは東京大学名誉教授の汐見稔幸氏が、「配置基準が貧困な背景には、小学校との関係があるのではないか。小学生以降の学級規模が大きいことが原因ではないだろうか。皆と同じように学ぶ価値観や、全員が教員が言ったとおりに同じ行動するのがよいとする集団主義的な教育観を変えないといけない」と話した。

また、日本総研の池本美香上席主任研究員は、「女性の就業率と保育所の利用率は増えたけれど、それは働く女性を増やすための保育。子どもにとってどのような保育を実現するのかという話は聞こえてこなかった。保育事故は過去最多を更新して歯止めがかからない。海外では親の働き方自体を見直しており、保育士にも働き方改革は必要。保育士が、親の声も子どもの声も聞くことができるような働き方と配置基準の改善が必要だ」と言及した。

地震や火事の時、赤ちゃん3人を抱えて逃げられるのか?

厚生労働省の調査では、2024年の小中高生の自殺者数が前年から16人増えた529人となっており、統計のある1980年以降で最多となっている。

こうした状況を受けて、池本氏は「15歳以降の子どもたちが親と話す頻度が低下していることが背景にあるのではないか。待機児童対策で保育園が詰め込み状態になった頃の子どもたちが、今15歳になっている。保育士も親も話を聞いてくれず、学校の先生も忙しく、大人に話を聞いてもらえない環境。保育も学校もセットで変わるべき。子どもの最善の利益のために財源確保が必要だ」と指摘した。

「子どもたちにもう1人保育士を!」の全国保護者実行委員会(事務局:名古屋市)では、目指すべき配置基準を提言している。

0歳児は現行の「3対1」から「2対1」へ、同様に1歳児は「6対1」から「3対1」、2歳児は「6対1」から「3~4対1」、3歳児は「15対1」から「5~10対1」、4~5歳児は「25対1」から「10~15対1」への改善を求めている。

もし地震や災害が起こった時、保育士1人で赤ちゃん2人までなら両脇に抱えて逃げられるかもしれない。しかし、0歳児の配置基準が保育士1人に子ども3人の現状では、果たして赤ちゃん3人を連れて逃げることができるだろうか。保育士配置基準の抜本的な見直しは、必要不可欠ではないだろうか。

東洋経済education×ICTでは、小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。
小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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