日本の保育園はなぜ、「保育士"あと1人"」が足りないのか?「保育園事故」過去最多が示す悲惨な現場、劣悪な労働環境が抱える【深刻なジレンマ】

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「月経痛が重くて休みたいと思っても、なかなか休めません。園長は『休んでいいのよ』と理解がありますが、いやーっ、そう言われても……という感じで。自分が抜けたクラスの大変さを考えると、やっぱり休めないです。なんとか出勤してどうにか働ければ園に残り、ダメなら帰ろうと思って出勤しますが、あまりにもお腹が痛くて動けず、結局帰ることもあります」(美央さん)

それでも美央さんは、「保育園の方針が子どもに寄り添っていて、保育園時代にしかできない遊びを思い切りさせてあげよう、というものなので、これまで働き続けてこられました。あと1人、誰か大人が保育室にいてくれれば、もっといい保育ができるのに」と話す。

中堅保育士で年収360万円、社長は高級外車を乗り回す

2013年、故・安倍晋三政権下で待機児童対策の大号令が出たことで、株式会社を中心に保育園が急増した。なかでも営利企業による認可保育園は、2013年の474カ所から2023年には3490カ所へと大幅に増えている。その中には、あえて配置基準ギリギリの数の保育士しか雇わず、しかも低賃金で、少しでも人件費を抑制して利益を出そうとする経営者が散見される。

認可保育園の推移
(出所)厚生労働省「社会福祉施設等調査の概況」より筆者作成
営利企業による認可保育園の推移
(注釈)2011年は岩手県、宮城県、福島県の8市町村を除く。2010年以降その他に計上してあった有限会社を株式会社に計上。2014年は福祉行政報告例の施設数から修正したものを計上
(出所)厚生労働省「社会福祉施設等調査の概況」より筆者作成

「保育士はギリギリの体制で、週休1日の状態。風邪くらいでは休めず、インフルエンザやコロナでやむを得ず休む場合も、有給休暇を使って休むよう言われます」

ある株式会社が都内で運営する認可保育園で働く池野香さん(仮名、30歳)は、心身ともに限界の状態だという。保育士が休めば配置基準違反状態という劣悪な勤務状態のうえ、中堅でも年収が360万円程度。一方の社長は高級外車で保育園に乗りつけ、「園児が定員割れになったら不採算になる。人気がないのは保育士が悪いからだ」と言っては、「入園希望者が増えるように営業しろ」と命じるのだった。

残業も多く過労状態で、香さんら保育士は子どもたちを見きれない。ある日のお散歩では、園児にケガをさせてしまったという。公園でブランコを強くこいでいた5歳の子どもに向かって、よちよち歩きの2歳の子が近づいていることに気づかず、子どもたちが衝突。2歳児が顔にケガをしてしまった。香さんは、「このままではいつか、もっと大変な事故に遭いかねなくて怖い」と、退職を考えている。

認可保育園での保育事故は2015年度の344件(うち2件は死亡)から年々増え、2024年は1449件(うち1件は死亡)と過去最多を更新している。これまでの筆者の取材からは、急ピッチで保育園が作られたことで保育士育成が追い付かないこと、劣悪な労働条件のなかで離職が相次いで保育スキルが向上しないことなどが主な原因と見られる。

次ページ地震や火事が起きた時、赤ちゃん3人を抱えて逃げられるのか?
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事