日本の保育園はなぜ、「保育士"あと1人"」が足りないのか?「保育園事故」過去最多が示す悲惨な現場、劣悪な労働環境が抱える【深刻なジレンマ】

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こども家庭庁の「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」(2024年度)によれば、実際に認可保育園に配置されている保育士は、配置基準よりも平均4.1人多い。ただ、保育園には配置基準の人数分の人件費しか入らないため、保育士を多く雇うほど、保育園にとっては人件費が「持ち出し」になってしまう問題もあるのだ。

冒頭の美央さんの保育園では、5歳児クラスは2人担任だが、ほかのクラスは配置基準ギリギリ。保育士の誰かが休むと、美央さんは各クラスのヘルプに駆り出される。1週間ずっと自分のクラスに入れず、ほかのクラスで保育に当たっていたこともあるそうだ。

4分の1が「発達の気になる子」、クラスはすぐ手薄に

そして、美央さんが担任する子どもたち20人のうち5人が、発達の「気になる子」だという。少しでも嫌なことがあるとカッとなって部屋から飛び出してしまうため、その都度、保育士が追いかけなければならない。友達とのトラブルがなかったとしても、ふらっと保育室からいなくなってしまう子もいる。保育室を出てしまった子どもを担任1人が追いかけると、保育室の子どもたちは残った担任が1人でみることになる。これは、どのクラスでも同じ状況だという。

たとえクラスに2人の正職員保育士が担任として配置されていたとしても、1人が自身の体調不良で休み、もう1人がわが子の急な発熱などで休めば、クラスに正職員がいなくなってしまうことも珍しくはない。その場合、パートの保育士で対応することになるが、普段から接していない保育士が入っても子どもたちがまとまらず、好き勝手にしてしまうため「もう、部屋の中はぐちゃぐちゃです」と美央さんは語る。

5歳児クラスといえば、卒園を控えた大事な年齢。多くの保育園では小学校入学前の準備もあって、授業時間中ずっと座っていられるように指導するなど、求められることが多い。美央さんは「自分の気持ちを言い出せない子に向き合ってあげたいのに、それができないんです。その子が何も言えないまま小学校に進んでいくのが心配です」というジレンマを抱える。

0歳や1歳の乳児クラスも人手は必要だ。玩具を誤飲しないか、よちよちと歩き始めれば転んで頭を打たないかなど、片時も目が離せない。まだ言葉で話すことが難しい年齢ならではの「噛みつき」も起こる。乳児同士が玩具の取り合いなどで喧嘩になって噛み付き、相手の子どもの腕にくっきり歯形がついてしばらく消えないこともある。保育士はトラブルを察知して、相性の悪い子ども同士は離すなどすぐに止めに入らなければならない。

現場に余裕がないことで離職が止まらず、人手不足が解消しないという悪循環を招いている。美央さんの保育園では、中堅になる頃に辞めてしまう保育士が多いという。少なくとも毎日1時間は残業、行事などの準備に負われれば3時間ほどの残業になるが、時間外労働の手当てが満額ついたことはない。新卒採用などで人手を補ったとしても、経験10~15年目がいない状況では、残った保育士の負担は依然として重い。

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