外国籍生徒が7割を占める夜間中学が「AI型日本語学習教材」の導入に踏み切った背景 日本語指導、専任教員の配置や指針確立に課題

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生徒たちは基本的に母語が同じ生徒同士で会話をすることが多いそうだが、しだいに母語が異なる生徒同士が日本語を使ってコミュニケーションを取ろうとする場面も見られるようになったという。

「教員の負担軽減」にも効果、「進度のばらつき」は課題

また、ICT教材の導入は、教員の負担軽減にも効果があったそうだ。

「『すらら にほんご』の導入当初は、生徒が継続的に取り組めるように計画を立てるなどの準備が必要でした。しかし、一旦軌道に乗ると、AIが生徒それぞれのつまずいている部分を繰り返し学習できるような出題をしてくれるので、教員は手間がほとんどかかりません。行事や保健指導などの際にも、教員がわかりやすい日本語で伝えれば翻訳なしでも生徒が理解できる場面が増えたことで、入学当初に比べると教員の負担は軽減されたように思います」

文科省の調査によると、学校での日本語指導においてICT端末等を活用している自治体は全体の39.0%で、いまだに半数以上の自治体では活用が進んでいない状況だ。日本語教育におけるICT教材の可能性について、青木氏は次のように話す。

「多くの夜間中学が、日本語教員の人材不足という課題を抱える中、ICT教材は補完的な役割を果たせる可能性があるのではないでしょうか。また、通常の小中学校での外国籍の児童生徒に対する日本語指導は取り出し授業の形で行われることが多く、時間も限られています。そのような場面でICT教材を活用したドリル学習を行うことは効率的で有益だと思います」

ただ、ICT教材活用にあたって、指導の面では課題も残されているという。例えば、日本語がほとんどわからない生徒に対する指導の導入が難しいと青木氏は話す。

「どのように指導を始めれば高い意欲を維持しながら学習を継続できるのか、手探りです。重要な言葉は事前に翻訳するなど準備はしますが、それでも伝わらない場合は身ぶり手ぶりを交えて説明するしかありません。『すらら にほんご』は日本語検定のN5レベルからの学習が可能ですが、そのレベルに達するまでの日本語学習歴が短い生徒向けのコンテンツも必要だと感じています」

また、ICT教材は端末があればどこでも学習できるので、空き時間や自宅学習で熱心に自習を進めていく生徒がいる一方で、就労している生徒は授業以外で取り組む時間を確保することが難しいケースもある。

「生徒の進度にばらつきが見られる現状を改善するためにも、初期日本語コースでは2学期以降に『すらら にほんご』に取り組む授業を週1コマから2コマに増やすことや、担任の日本語授業の内容とリンクした指導も検討しているところです」

指針や研修体制が確立されていない「現場頼みの現状」

文科省の調査では、教育委員会における日本語指導が必要な児童生徒等の教育に関する研修を実施している自治体は19.6%にとどまる。夜間中学の日本語指導は確立された指針や研修体制がなく、学校単位で研修先を探したり、教員が自主的に学んだりしているケースが多いと推測できる。

実際、青木氏たちも日本語学校で研修を受けるほか、数十年の歴史を持つ大阪府の夜間中学なども見学したという。しかし、「他校のノウハウだけを借りようとしても、その内容の本質を理解できていないと、そのまま活用するのは難しい面があります。ゼロからのスタートとなった本校では、試行錯誤しながら自分たちに合う方法を見つけていく必要がありました」と振り返る。

こうした“現場頼み”の現状の改善に向けて、文科省は2025年度、夜間中学での日本語指導の指針作りに動き始めている。現場教員の負担軽減のためにも、ICT教材の活用例なども含めた具体的な指針策定や好事例の共有が待たれる。

(文:安永美穂、注記のない写真:静岡県立ふじのくに中学校提供)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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