首藤被告がスキーム利用者に対し、「覚書は危険な書面なので、他の契約書とは分けて保管するように」などと依頼していたことは本連載第3回で触れた通りだ。2020年7月に同被告が「節税のスペシャリスト」である同氏にスキームの販売提携を持ち掛けた際、スキームの適法性について助言を求めていたとしても何ら不思議はない。
だが仙石氏の証言を聞く限り、同氏が首藤被告から受けた節税スキームの説明は、2019年4月に覚書が導入される以前の「原型」スキームに関するものだったと考えられる。そのあたりの事情について、同氏は前述の公判で次のように述べている。
「このスキームの適法性について、税理士として首藤氏から何らかの相談を受けた事実はありません。ボーノが2020年7月当時、電気料金削減サービス事業を営んでいなかった事実も知りません。ボーノと販売取次店との間で、販売取次店がネクスト社に支払った資金に106%や110%などの一定割合を乗じた金額を、ボーノが継続手数料名目で支払うことが保証されていて、その旨の覚書が作成されていた事実も、首藤氏からは聞かされていません」
「経費計上は誤りでした」
その上で仙石氏はこう述べた。
「そうした事情を聞かされていれば、ボーノの電気料金削減サービスの顧客や販売取次店を首藤氏に紹介する業務は請け負いませんでした。(元本や利回りを保証する)覚書が作成されていれば、販売取次店からネクスト社への業務委託費の支払いは金銭消費貸借的な性格のものという解釈になるからです。電気料金削減サービス事業に実体がまったくなく、提供資金が確実に返還される約束があるのなら経費計上はできません。(S社の顧問税理士として)業務委託費を経費計上したことは誤りでした」
仙石氏によると、同氏が覚書の存在を知ったのは、S社の脱税容疑で東京国税局査察部や東京地検特捜部の事情聴取を受けた時のことだった。また南青山FASは特捜部に内部資料のデータを提出し、社内に覚書がなかったことを確認してもらったという。
なるほど、当初から“節税”スキームが税務当局に否認される恐れがあると考えていた首藤被告は、仙石氏にスキームの販売提携を持ち掛ける際、スキームに実体がない事実や覚書が作成されている事実には敢えて触れず、「原型」スキームの話をするにとどめたということなのだろう。
さて、ここで舞の海氏がもともと取引のあった野村証券から南青山FASと首藤被告を紹介された話に戻ろう。仙石氏によると、同被告の“節税”スキームを紹介した企業は、舞の海カンパニーを含め数十社にのぼるという。同氏は前述の公判証言で、「私が直接紹介している先もあれば、野村証券からの紹介で首藤氏を紹介したケースもありました。私たちのお客様だけではなく、証券会社のお客様にも首藤氏を紹介しました。そうしたニーズのある方々にいろいろな企業を紹介しているので、その一環として繋ぎをしていました」と述べている。
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