高校英語で「生成AI」をフル活用、個別最適化で書く・話す授業が激変した実践例 生徒自ら弱点発見、メタ認知で自律的な学びへ
導入時に伝えるのは、『ChatGPTを使う目的は、あくまで自分を客観視することであって作業の効率化ではない』という一点だけです。『危険だから使うな』ではなく、『危険を知って賢く使え』というのが、AI時代のあるべき教育なのではないでしょうか。最低限のガードレールを教員が敷きつつ、その中で意図的に失敗させながら学ばせるスタンスを取るようにしています」
上村氏の言う「意図的な失敗」の一例としては、教科書の内容を要約して自分の意見を述べるリテリングの学習において、ある生徒がChatGPTに作成させた原稿をそのまま自分のものとして発表したところ、語彙レベルが高度すぎて、誰にも理解してもらえなかったケースがあるという。生徒たちはこのような失敗を体験しながら、何もかもをChatGPTに委ねるのではなく、自分に足りない部分を補うツールとして使いこなしていく方法を身につけているそうだ。
成長のプロセスを評価することがAI時代の教師の役割
「生成AIを使えば使うほど、人間の教師の価値とは何だろうということを考える」と上村氏。教師でなければできない生徒への働きかけについて、次のように語る。
「絶対評価はAIの方が上手だと思うのですが、教室の現場では、一人ひとりの生徒の昨日と今日を比較してどんな成長が見られたかという相対評価に着目した方が動機づけにつながると感じています。普段は5行くらいしか英文を書けない生徒が、ある日は15行の英文を書いてきたとしたら、文法のミスがあってもあえて指摘はせずに、長い文章を書けるようになったことに対する努力を褒める。そういったことは、人間の教師でなければできないことです。このような成長のプロセスを生徒にフィードバックしていくことが、AI時代の教師には求められると思います」
GIGAスクール構想により、1人1台端末やインターネット環境は整備されたものの、現時点では生成AIを授業に活用している教員は多くはない。生成AIの活用に抵抗感がある場合は、「まずは生成AIに自分が書いた英文を入力して、『この英文を添削してください』と一文だけ指示することから始めてみてほしい」と上村氏は話す。
「生成AIの活用に関しては、私も含めて皆が同じスタートラインに立っている状況なので、一緒に試行錯誤を楽しみましょうということに尽きます。英文添削を1回やってみるだけでも、生成AIが非常に便利なツールであることは実感していただけるはずです。
2025年秋からはハーバード教育大学院への留学を予定しており、いろいろな国から来ている留学生とともに、教員のための国境を越えたコミュニティを作りたいと思っています。将来はぜひ、日本の先生方にもそのようなコミュニティに入っていただいて、生成AIをはじめとするテクノロジーの効果的な活用法について一緒に学びを深めていくことができたらと考えています」
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(文:安永美穂、注記のない写真:本人提供)
東洋経済education × ICT編集部
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