精神疾患による病休が過去最多→要因の多くは「人間関係」、教員に必要な"線引き"のコツ 「よかれと思って」は罠、心守る"バウンダリー"
すべての責任を取ることはできないと認識したうえで、自分には無理だと思ったことからは手を引き、「自分にできるのはここまで」と深入りせずに線引きしながら子どもや保護者と接しましょう。アドラー心理学でも「課題の分離」という考え方がありますが、自分の課題と他者の課題を分け、自分の課題に責任を持つことが大切です。
教員1人だけで学校で起こるすべてのトラブルを解決することはできませんので、チームで対応したり、必要に応じてしかるべき専門機関や人につないだりしましょう。すべてを自分でやろうとせずに頼るべきところにつなぐことで、子どものことだけでなく、自分の心も守ることができるのです。
自分の心を守る「線引き」の方法とは?
――「線引き」というのは具体的にはどのようにしたらよいのでしょうか。
「バウンダリー」という心理学用語があります。これは「自分と他者の間にある境界線」のこと。人は誰しも自分だけの領域があります。時間、人間関係、価値観などさまざまな領域がありますが、その境界線を守るためには「どこまで相手と関わるのか」、「どこから自分を守るのか」を決めることが重要です。そしてそれができずに相手に自分の境界線をどんどん超えられてしまうと、追い詰められてしまいます。
そのため、まずは自分にとって大切なもの、幸せとは何かを考えてみましょう。患者の皆様も「幸せになりたい」と言うのですが、自分にとって何が幸せかをわかっていない人は非常に多いです。「自分は一体、何に幸せを感じるのか」「SNSなどで発信されているキラキラした日常をまねしていることが本当に幸せなのか」など、自分の価値観に一度目を向けてみてください。
もちろん、答えは人によって異なりますが、それがわかれば自分が大切なものを守るための「他人との接し方」の線引きがしやすくなります。
――自分にとっての幸せと言われても、パッと思いつかない人もいるのではないでしょうか。
そういう場合は好きなものを順番に並べてみたり、なくしたくないものを順番に挙げてみたりすると、イメージしやすいかもしれません。
私がよく患者様に投げかけるのは、「ケーキを買うとしたら、どういう状況で買うと思うか。幸せな気持ちでケーキを買っている自分を想像してください」という質問。答えが「子どもの誕生日のお祝いのケーキ」であれば家族、「自分の出世のお祝いのためのケーキ」であれば仕事、「同級生と集まって食事会をするためのケーキ」であれば仲間や趣味が大切なのかなと、気付きやすくなります。
自分にとって大切なものが見えてくると、それを守るために日頃からどのように行動すればよいかがわかり、追い込まれることも減っていくのではないでしょうか。精神状態が悪くなってから戻していくのは大変です。考え方や意識を変えて、日頃から自分の心を守っていくようにしましょう。
大切な「サインの把握」、「信頼できる精神科医」はこう選ぶ
――日頃からのケアが大切ということですが、精神的に追い込まれたときに出るサインなどはありますか。
お腹や頭が痛い、食欲がない、眠れないなど身体的な不調が出てくるのは、すでに精神疾患が重くなっている状態です。早い段階で現れる症状は人によって異なりますが、例えば仕事のミスが増えた、郵便物が整理できない、部屋が散らかっているなど、普段の自分では考えられない状況が続いていることが目安。自分にとってしんどくなると起こりがちなサインをわかっておくと、早めに対処がしやすいと思います。
もしそのような初期段階のサインが続いたときは、まずはしっかり寝て体をゆっくりと休めること。残業を減らせるように管理職に相談してみる、付き合いの飲み会を減らすなど、対策もセットでわかっているといいですね。私の場合は疲れが溜まると、朝起きることができなくなります。そういうときは何よりも寝ることを優先して、体を休めています。