精神疾患により休職した教職員が6539人と過去最多
文部科学省は12月末、精神疾患を理由に病気休職した教職員数が全体の0.71%に当たる6539人と過去最多になったと公表した(「令和4年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」)。
ここ数年、年間5000人台で高止まりしてきた精神疾患による休職者数だが、改善することなく6000人をついに超えてしまった。社会全体で精神疾患者が増えていることもあるが、学校現場では本来配置されるはずの教員を確保できずに未配置となっている、いわゆる教員不足が深刻で多くの現場で業務過多の状況が続いている。
「うちの学校では、2022年度半ばから悪化しています」。こう話すのは、東京都内で小学校教員を務める山本美佐子(仮名)さんだ。産育休と精神疾患による休職者が複数名出たが、代替教員が配置されず、校長と副校長も担任や授業を受け持たなければならなくなった。そんな折だ。山本さんも体調を崩した。
教員不足に加えて、モンスターペアレンツにも悩まされた
「欠員によって仕事量が増え、体力的にも精神的にも追い込まれていました。当時受け持っていたのがトラブルの多い学年だったこともあります。ADHD(注意欠如・多動性障害)やLD(学習障害)など特別な支援を必要とする子が多いにもかかわらず、介助員が十分に配置されていませんでした。そういう子も、親がのぞめば通常学級で指導することになりますから、クラスに3人以上座っていられない子がいるなんてこともあり、授業中の“飛び出し”は日常茶飯事でした」
モンスターペアレンツにも悩まされた。放課後に子ども同士でトラブルがあれば、被害に遭った子の親から学校に連絡がくる。問題のあった子の家庭に連絡をして事情を説明するも認めない……。
子どもの成績が下がれば、その変化に気づかなかったのか、なぜ連絡をくれなかったのかと保護者から問いただされる。当たり前であるはずの話が通じず、これは学校がやるべきことなのか、本来は家庭がやるべきことではないのか、葛藤し続けたという。
「学校に行きたくない、と毎日思うようになりました。でも一度休んでしまったら、復帰はできない。最初は2カ月と言って休んだ同僚が復帰できないのを見てきていますから、自分はそうなるまいという思いもありました。そのため2週間に1度、心療内科に通って薬を服用しながら勤務を続けています」
医師からは、思い切って休んでしまったほうが回復は早いと言われるそうだ。しかし、自分が休んでも代わりはいない、周りに負担がかかることは身をもって知っている。学校においても責任ある立場で、どうしても休めなかった。
こうした山本さんのような人は、文科省の調査の精神疾患による休職6539人にも、1カ月以上の病気休暇取得者のうち精神疾患者とされる1万2192人にもカウントされていない。
管理職が手を尽くして代替教員は見つかったが…
それでも2023年度に入って、欠員の穴埋めができ、いくぶん状況は改善した。代替教員の確保に管理職が手を尽くしたからだった。
「ただ中には高齢の方もいらっしゃって、膝や腰に持病があるにもかかわらず、体育の授業をやらなければなりません。つねに体調面に不安があり、突然お休みされることもあります。いちばん残念だったのは、代替教員のうち1人が夏に辞めてしまったこと……。経験もあり期待も大きかったのですが、そのせいもあって難しい学年の担当で、統率できなかったことに責任を感じてうつになってしまいました。周りも配慮する余裕がなかったことにも原因があると考えています」
さらにそのあと産育休に入ってしまう教員が出るなど、年度初めにいったん改善されたかに見えた状況は結局元に戻ってしまった。だが、山本さんは今のところ教員を続けたいと言う。不安を抑える抗不安薬を飲んで、学校まで来れば、スイッチが入ると。それには理由がある。
「ブラックなところばかりにスポットが当てられますが、教員は子どもの成長を感じられるすばらしい仕事です。いいところ、やりがいをもっとアピールして、なりたいと言ってくれた人を採用したら教員不足にならないのではないでしょうか。一人ひとりの業務が多すぎるので、とにかく人を増やす以外に今の現場を改善する方法はありません」
教員不足が深刻化しているのには、教職員の精神疾患による休職が増えていることとも密接に関係している。休職者を減らす、また休職している先生に無理なく復帰してもらえる仕組みを整えていくことはもちろん、山本さんのように薬を服用しながら勤務を続ける教員を放置することも見直さなければならない。
後編では自身も若い頃、心に不調をきたした経験を持ち、現在は都内の小学校で校長を務める桜井健太氏(仮名)に話を聞いた。現在は管理職として休職者と向き合う立場でもある。
(文:編集部 細川めぐみ、注記のない写真:Graphs / PIXTA)