不登校改善や学力向上、教員の休職がゼロになった学校も・・・非認知能力育む「SEL」とは? 必要な学びに向かうための環境や土台をつくる
SEL導入校の背景に、「探究」や「不登校」などの学校課題
roku youは、これまでに通信制高校を含む全国の100校以上の学校に伴走し、SELを教育現場で実践してきた。SELを取り入れたいという学校からの依頼は、大きく分けて2つあるという。
「1つは探究で児童生徒の多くが、自分の関心や興味に気付けない、グループを自分たちでうまく作れないというもの。もう1つは、不登校や自己肯定感の低い児童生徒が多い、いじめ事案や教師の休職で悩んでいるなど、学校全体に問題を抱えているケースです。基本的には1年間を通して探究に伴走し、SELを展開します。授業設計や生徒がどうしたら自分の気持ちに気付けるかなどの具体的な指導を軸としながらも、机の配置などの空間的な調整や保護者との連携、教員研修など、全方位からアプローチしています」
手法については、すでに世界で成果が確認されているSELのプログラムやソーシャルスキルトレーニング、マインドフルネスなどの知見をアレンジするほか、神経心理学や発達心理学、認知行動療法などの知見を基に開発したものを実施しているという。
例えば、前述の5つの能力を高める指導の1つとして行っているのが「感情当てゲーム」。山になったカードから1枚めくり、書いてある感情を自分が感じたときの状況を話す。話を聞いた周りの人たちは、カードに書かれている感情がどれか当てる。

このゲームによって、子どもたちは自分の感情に気付けるようになり、感情に触れることで他者理解が深まることにもつながるという。このほか、インタビューを通じてお互いのことを知るワーク、自分の感情の波を図で表すワーク、自分の取り扱い説明書を作成して他者と共有するワークなどもある。
しかし、下向氏によると、SELで大切なのは提供するコンテンツではなく、それを提供する側の姿勢や体現だという。コンテンツだけ渡しても、教員がなぜそれをやる必要があるのか理解していなければ成果は出ない。だから、基本的に支援は教員研修から始めると下向氏は語る。

いくつかの公立中学校の教員研修では、教員自身が「なぜ教員になったのか」「どのような人生の中で選択をしてきたか」などについて語ってもらうことで自身の思いや感情に目を向けさせ、さらにほかの教員の話を聞いて他者の気持ちに気付く機会を作るなどした。その結果、教員の心理的負荷の軽減をはじめ、日常会話の中で相談が行われることによる時間的負荷の軽減、トラブル時に助け合える風土が生まれるなどの成果が見られたという。
SEL導入で「不登校改善」「学習意欲向上」の成果も
ある公立中学校では、生徒の自己効力感が低いように感じるものの背景が見えないとのことで、東京学芸大学と協働作成したウェルビーイング指標に基づくアンケートを実施し、児童生徒の状態を共有したうえで手立てを学校に提案。その結果、教員間の課題意識が揃い、解決に向けた対話ができるようになったという。
複数の中学・高校では、生徒たちが与えられたテーマに対して、自らミッションを考え達成に向けて企画・実行するワークを実施。教員が生徒の創造性に気付くきっかけになったり、生徒の主体性が向上したりといった成果が見られた。例えば、うるま市立あげな中学校では、「心地よい環境を自分たちでつくろう」というテーマに対する取り組みとして、生徒たちは校舎に絵を描いた。自分の上げた声が生かされることで、学校環境に対する“自分事感”が向上したという。