複数の自治体で効果検証、自由進度学習で「深い学び合い」ができている学級、3つの共通点 「学び方の自由の保障」で不登校が減った例も
例えば、自由進度学習の導入に先行して先生たちが教室のリフォームを決定し、先生主導でサークルベンチやマットを置いたところ、授業中の勝手な立ち歩きが増え、ひいては学級が荒れてしまったのですぐにやめたといった相談を複数受けてきました。子どもたちからは「自由に使っていいと言われたのに、使おうとしたらダメだと言われた」という声が上がることもありました。
この場合は、そもそも、「子どもが自分たちなりに学んだり生活したりする力を育む」ために、「子どもたちが対話を通じて意味を納得し、自分たちで合意しながら教室をリフォームし続けていく」という目的と方法の関係を理解することが重要です。けれど、それだけでは充分でないことも多い。
先ほど芦屋市の事例としても紹介したように、「なぜ子どもたちの学びと生活には自由が必要なのか」「それを支える『よい教師』とは」といった本質について哲学対話を重ねると、先生たちのまなざしや振る舞いは自ずと子どもたちの有能さを信頼するものに変わっていきます。形式にしっかりと内実が伴うようになるのです。これも、複数の自治体の効果検証から見えてきたことです。
こうした自由進度学習のポイントの詳細は、令和6年度の文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」の名古屋市の報告書や、8月に公開予定の私の論文をご参照いただけたらと思います。
デジタル活用は「個別化・協同化・プロジェクト化の融合」を
――動画やAIドリルなどが自由進度学習で用いられることもありますが、扱い方によっては「単なる自習」になりがちです。デジタルツールとはどう向き合うべきでしょうか。
哲学者・教育学者の苫野一徳氏が教育学史を総覧してまとめた「学びの個別化・協同化・プロジェクト化の融合」の視点がカギとなります。「個別化」だけに着目すると単なる自習になったり、ひいては学びが孤立したりしがちですが、「協同化」と「プロジェクト化」のための工夫を含めた3つを融合することでより効果的な使い方ができるようになります。
例えば、小学6年生の社会である時代の歴史について学ぶ場合、「自分なりの時代観をつくろう」というプロジェクトを設定し、自分の考えをまとめるワークシートをクラウド上で共有しつつ、デジタルを含めたさまざまなツールを使って自分なりに調べ学習を進める。同じことを一緒に調べても時代観は異なる場合があるし、それがリアルタイムで共同閲覧できれば多様な学び合いが自ずと促されます。こうした授業づくりによって、教科が目標とする見方や考え方を育む深い学び合いに迫れるのではないでしょうか。
今後、AIのエージェント化が進めば、学習指導要領を十分に踏まえた“適度に挑戦的で魅力的なプロジェクト”の設定や、スタディログを活用した“偶発的なグループ編成”などが、個別最適な形でレコメンドされるようになることが期待できます。
だからこそ、先生方には「ほかの誰でもない、『あなた』という生身の人間が、先生をやることの意味」を自分なりに考え、対話を重ねて共通了解を見出す経験をしてほしいです。それを探究することが、先生方が自分らしさを生かして幸せに仕事をすることにつながっていくと思いますし、そうであってほしいと願っています。
(文:安永美穂、注記のない写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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