軍隊の名残りも…「体育ぎらい」の理由、教科としての本質を見直すとき 体育座りは体に悪い?劣等感を感じた子も

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そこには、もちろんスポーツ的な要素も含まれてはいますが、ほかにも意図的にからだの力を抜いたり、長時間でも疲れにくい座り方や立ち方ができたりなど、自分や他人のからだとうまく向き合う力も含まれます。

私が体育の意義や目的をこのように考えるのは、子どもたちが多様な他者と共に、自分自身のからだで賢く、幸せに生きていくことが、子どもたちにとってもっとも大切なことだと考えているからです。それはきっと、スポーツがうまくなることよりも、はるかに重要なはずです。

「体育なんて好きにならなくてもいい」

――坂本先生は著書の中で、「体育なんて好きにならなくてもいい」と述べられています。

「からだを豊かに変えていくこと」が目指すべき体育であるならば、学校での体育の授業は、その役割を担う1つの活動であるということになります。

体育の授業では運動を行いますが、日常生活において歩くことも、階段を上ることも運動です。そのように考えると、運動という概念と同じように、「体育」そのものも、本来はもっと広い意味を持っているはずです。だからこそ、「“狭い意味での体育”なんて好きにならなくてもいい」と思っているわけです。

さらにいえば、学校の体育が嫌いでも、自分のからだのことは嫌いにならないでほしいと思っています。なぜなら、「自分のからだを嫌いにならないこと」は、「自分自身を嫌いにならないこと」と同じ意味を持つからです。逆にいえば、自分のからだを知り、賢く付き合っていくことは、自分という唯一無二の存在を、根っこの部分で認めることにつながると思います。

――坂本先生がお考えになる「好きにならなくてもいいけれど、からだを豊かに変えていく楽しさを味わえる」体育の授業とは、例えばどのような授業でしょうか。

跳び箱を例にあげると、小学校の跳び箱の授業でただ「何段跳べたか」を競うのは、決して「豊か」とはいえません。それは「速く走るのがよい」とだけ教えるようなものです。

子どもたちのからだを豊かに変えていくためには、跳び箱を「子どもたちが多様な動きを経験できる教材」ととらえる必要があります。それにより、例えば、子どもたちが協力して何人同時に跳び箱の上に乗れるかに挑戦したり、跳び箱からいろいろな飛び降り方を試したりするようなさまざまな運動が生まれてきます。

このような「遊び」を通し、跳び箱に慣れ親しむ運動を実践することは、からだを豊かにしていくことにつながりますし、恥ずかしさの軽減にもよい影響が及ぶのではないかと思っています。

――跳び箱を、「跳ぶためだけの教材」としてではなく、「遊ぶための道具」として捉えるということですね。先ほどおっしゃられていた「意図的にからだの力を抜く」という視点では、例えばどのような授業がありますか?

バスケットボールの授業を例にあげると、一般的にバスケットボールのドリブルでは、「速く、強く」ドリブルすることがよいとされています。これは、競技としてのバスケットボールにおいては正しい考え方です。

しかし、体育の授業でバスケットボールを教材として扱う場合、必ずしも「速く、強く」だけを追求する必要はありません。例えば、「できるだけゆっくり、できるだけからだの力を抜いて」ドリブルすることを試してみると、面白い発見があります。

バスケットボール部に所属する生徒でも、力を抜くことに慣れていないと肩や腕に力が入ってドリブルがぎこちなくなったりします。一方、バスケットボール経験のない運動が苦手な生徒でも、力を抜く感覚をつかむと、楽に柔らかくドリブルできることがあります。

このような運動経験を通し、力の抜き方やからだの動き方など、多様な体験を通し、「速く、強く」という価値基準だけでなく、「ゆっくり、力を抜いて」という別の価値基準を取り入れることで、子どもたちは自分のからだの新たな可能性に気づくことができます。

――このような授業なら、バスケットボールが苦手な児童生徒もその子なりに楽しさを味わうことができますね。

学習指導要領には、「速く」ドリブルすることが「よい」とは明確には書かれていません。そのため、どのような価値基準で子どもたちに実践させるかは、1人ひとりの先生に委ねられている部分が大きいのです。私たち教師が競技スポーツの論理にとらわれず、「ゆっくり、力を抜いて」といった多様な価値基準を取り入れることで、結果的に、子どもたちはスポーツの新たな楽しみ方を発見できるのではないでしょうか。

――教科全体で、「からだを豊かに変えていく楽しさを味わえる」ための取り組みはありますか?

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