塾講師も懸念「中学受験組」の暴言や学級の荒れ、ストレスの矛先は小学校に 子の人格形成を重視し「高校受験」を選ぶ家庭も

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冒頭で触れた名門私立中学生の暴言やマウント合戦が象徴するように、「偏差値」や「学力競争」という魔物は、時に子どもたちの人格を歪めるほど強い力を持つ。しかし、それに支配されず、冷静に自分を保てる「自我」を持つことができるのが、15歳という年齢なのだと思う。

もちろん、中学受験をせず公立中学校に進んだ生徒たちも高校受験のプレッシャーを多かれ少なかれ感じているはずだ。ただ、それが小学校時代のような荒れにつながらないのは、自分中心の視点から抜け出し、周囲を客観的に見る力が身に付いているからだろう。それが、小学校では手に入らなかった“成熟”という宝物なのだ。

「あえて中学受験をしない」家庭が増えている

人格や価値観の基盤が形作られるのは、一般に小学5年生頃までと言われている。来るべき「成熟期」に向かって、この人格形成の「総仕上げ」とも言うべき小学校生活後半の時期に、どのような経験をさせるべきか。保護者は一度立ち止まって考える必要がある。

現在、中学受験を選ぶ家庭の増加に伴い、自己肯定感を損なう子や心身を壊す子が増え、社会問題化している。さらに中学受験の「勝者」でさえ、競争の中で人格形成に悪影響を受ける例が少なからず見受けられる。とくに都市部では中学受験競争が過熱し、中学受験をするかどうかは、小学校生活の過ごし方そのものを左右する決断になりつつある。

こうした状況に疑問を抱き、「あえて中学受験をしない選択」を模索する家庭も実は増えている。中高一貫校出身の保護者や、中学受験の専門家が、自分の子どもに公立中学進学を選ぶ例も珍しくない。

私は、「小学生のうちは偏差値競争から距離を置き、英語の先行学習と自立学習重視の学びを進めつつ、好きなことや得意なことに打ち込む」という新しいルート、「戦略的高校受験」を提唱している。

大学入試改革によって、中学受験に象徴される「学力一本足ルート」は、少しずつ縮小に向かっている。今後は、ロボットづくりやスポーツなど、自らの「好き」を伸ばす学びが重視される時代が本格化していくだろう。

これから求められるのは、小学校時代に培った「基礎学力」だけでなく、習い事や探究活動を通じた「専門性」、多様な活動から得た「経験」、そしてコミュニケーション能力や粘り強さといった「人間力」だ。これらを総称して「社会性」と呼びたい。いわば、学力だけでなく「人としての力」が評価される時代に突入している。

教育熱心でありながら高校受験ルートを選択するご家庭の多くは、中学受験をパスした時間的ゆとりをこの「社会性」に振って育てている。幸い、高校受験は中学校の学習ベースでも対応ができる。ある中堅の都立高校の入学者アンケートによると、中学時代に継続して塾に通っていた生徒は6割にとどまる。学力上位層が多く集まる私の塾でも、自立学習スタイルで勉強を進めてきた子が1年弱の通塾で上位高校に合格している。

中学受験か高校受験か――どちらを選ぶべきか悩む保護者にとって、時代が求める能力の変化や高校受験ルートの実状は大きな指針となるだろう。子ども自身が興味を追求できる環境を整え、「社会性」を身に付けることが重要だ。その意味で、「戦略的高校受験」を選択する考え方は、都市部でもっと浸透してほしいと思う。

(注記のない写真:Fast&Slow/PIXTA)

執筆:高校受験塾講師 東田高志
東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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