塾講師も懸念「中学受験組」の暴言や学級の荒れ、ストレスの矛先は小学校に 子の人格形成を重視し「高校受験」を選ぶ家庭も

名門生徒の暴言と不登校の背景から浮かぶ「歪み」
「だから偏差値が低いやつは――」
これは、都内のとある公立中学校に通うAが、部活動の試合中に浴びせられた一言だ。審判を務めていたAは、試合中にミスジャッジを犯した。即座に謝罪したが、不利な判定を受けた選手の怒りは収まらず、この言葉を吐き捨てたという。その選手は、東大合格者数ランキングでトップを走る名門男子校の生徒だった。「誤審は自分のせいだが、あの一言は本当に許せない」とAは憤る。
たまたまかもしれないが、これと似たような出来事が立て続けに耳に入った。暴言を吐いたのはいずれも、中学1・2年生の男子御三家と称される生徒である。1970年代に御三家の一角である麻布高校の生徒たちが、全国高校野球予選で相手校の応援席に侮蔑的な発言を浴びせて社会問題となったが、令和の今も同じようなことが繰り返されているのだ。しかも、中学生が当事者となっている。
もう1つ、別の話を紹介したい。私は塾以外の学習支援活動にも携わっている。小学5年生のBは、通っていた塾を辞めて私が教える学習支援の場にやってきた。昨春、不登校になったことがきっかけだ。

高校受験塾の講師、教育系インフルエンサー
「東京高校受験主義」のアカウント名で首都圏の受験情報を発信。Xのフォロワーは約4万9000人(2025年1月現在)に上る。学校と塾の変化を見続け、小・中学生を教えてきた塾講師。フィールドワークとして都内各地の公立中学校や都立高校を訪問し、区議会議員とのコラボイベントも開催
(写真:本人提供)
一昨年、Bは親の仕事の都合で、中学受験率が推定8割を超えるという「名門公立小学校」に転入した。Bの父親によれば、不登校の原因は「学力のマウント合戦に疲れた」ことにあるという。
Bの両親は、好きな習い事を続けさせ、のびのびと育てる方針を大切にしていた。しかし転校後、Bは周囲に影響され、「中学受験をする」と言い出した。小学生の日常に「受験」や「偏差値」が深く入り込んでいる転校先の環境は、両親にとって予想外だったが、本人の希望を尊重して塾に通わせることにした。
Bは勉強が得意で塾の授業を楽しんでいた。しかし、どれだけ努力しても、マウントを取り見下してくる偏差値上位の相手には敵わないと感じていた。さらに、好きな習い事との両立もしだいに負担となっていく。そんな中途半端な状態を負けず嫌いの性格が許さなかったのか。Bはついに学校へ通うことができなくなった。
名門中学生の捨て台詞と、小学生を不登校へと追い込んだ学力のマウント合戦。異なる場で起きた出来事だが、私にはそこに1本の線が見える。両ケースとも、「受験や偏差値という土俵で生まれた歪み」を浮き彫りにしているように思えてならない。