5827人の定数増では足りない、「教員は増やす必要がある」これだけの根拠 「乗ずる数」の改善が多忙化の歯止めになる

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2024年12月27日、政府は一般会計総額115兆5415億円の2025(令和7)年度予算案を閣議決定した。教職員の処遇改善として、教職調整額を2025年度に5%、2031年度までに10%まで引き上げることに加えて、教職員定数を5827人増員することも盛り込まれた。「少子化なのに教員を増やす必要はあるのか?」という声もある中での定数改善となったが、「自然減も考慮すると十分ではない」「教員未配置の解消にはならない」などの不満の声はいまだ多い。教員は本当に増やす必要があるのか。増やすならばどのくらい増やす必要があるのか。教育分野に詳しいフリージャーナリストの前屋毅氏が取材した。

少子化だから「教員は増やす必要はない」?

「異次元」といわれる少子化が日本では進行している。厚生労働省が11月5日に公表した人口動態統計(概数)によると、今年上半期(1〜6月)の日本人の子どもの出生数は32万9998人で、このペースでいけば年間出生数は70万人を割り込み、過去最少を更新する見込みだ。

そうした中で、「少子化で児童生徒数も減るのだから教員の数も増やす必要はない」という意見もある。昨年末の2025年度予算案をめぐる文部科学省と財務省の折衝でも、教員に残業代を支払わない代わりに支給される教職調整額ばかりが注目されて、教員を増やす議論は注目されなかった。

しかし、社会問題にまでなっている教員の長時間勤務問題を解消し、さらに質的に豊かな教育を実現していくためには、教員の増員がどうしても必要である。

その立場から、日本大学文理学部教授の広田照幸氏を中心とする研究グループが、「少子化の中の公立小学校教員需要に関する将来推計」という論文を発表した。グループには広田氏をはじめ、橋本尚美氏(日本大学文理学部人文科学研究所研究員)、濱本真一氏(日本大学文理学部准教授)、島﨑直人氏(神奈川県教職員組合執行委員長)が名前を連ねている。

日本の少子化はどう動いていくのか、それにともなって教員を減らすのではなく、逆に増やす必要があるのか、そのために何をすべきなのか、研究グループの広田氏と橋本氏の2人に聞いた。

少子化のスピードはスローになる…

——少子化による公立学校の児童生徒と必要な教員定数についての将来推計をされていますね。しかし少子化が指摘されるようになってずいぶん長いと思いますが、この間に将来推計はすでにされているのではないですか。

広田 どうやら、しっかりした将来推計はなされてきていません。研究者によるこれまでの教員需給の将来予測は、過去のトレンドから今後を推計する単純なものでした。行政の側では長期の推計はやっていないようです。

少子化を口実に教員定数の改善が進まないとしたら、教育の質はよくならないし、今の教員の長時間勤務の問題解消もおぼつきません。だからこそ、具体的な数値を手にして教員増員の議論ができるようにするためには、将来推計の作業が必要でした。

広田照幸(ひろた・てるゆき)
日本大学文理学部教授
南山大学助教授、東京大学教授などを経て現職。近現代の教育を広く社会科学的な視点から考察している。専門は教育社会学・教育史。『教育論議の作法』(時事通信社)、『教育は何をなすべきか―能力・職業・市民―』(岩波書店)など著書多数
(写真:前屋氏撮影)

橋本 ここでは、公立小学校の児童数の推移について説明したいと思います。文科省の「学校基本調査」(2023年度)によると、2023年5月1日現在の公立小学校の児童数は593万3907人です。これは既定値なので、これを基準値とすれば、過去と同じように少子化が進行するとすれば、将来の児童数は推計できます。しかし、それでは正確な推計とはいえません。

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