5827人の定数増では足りない、「教員は増やす必要がある」これだけの根拠 「乗ずる数」の改善が多忙化の歯止めになる

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その結果、一致したのは、「長時間勤務に歯止めをかけるには、教員1人あたりの持ちコマ数を減らすしかない」ということでした。今の状態では持ちコマ数が多すぎて長時間勤務にならざるをえないだけでなく、教員が内容的に深い授業研究をする余裕もありません。これでは「豊かな学校教育」は実現できません。

——教員1人ひとりの持ちコマ数を減らさなければ、教員は忙しいままだし、豊かな教育もできないということですね。たしかにトイレに行く時間もないという現状では、授業準備も十分にできないし、豊かな教育になりません。

広田 そうです。そのためには、教員の数を増やすしかありません。文科省も財務省も単純な教員の数の話はしますが、そこに「質」で考慮することを忘れています。今回の私たちの論文では、その「質」の問題も大きなテーマとしています。

——具体的には、「質」を確保するためにも、教員数の決め方をどのようにしていけばいいのでしょうか。

広田 教員の数は基礎定数と加配定数で決まりますが、基礎定数のほうが大きな割合を占めているので、ここでは基礎定数で説明します。基礎定数を決めるときは、学級数に係数をかけて算出されます。この係数が、「乗ずる数」です。

橋本 乗ずる数は学校の学級数で変わるのですが、8学級および9学級の学校で1.249、16学級から18学級までの学校で1.200となっています。18学級の場合なら「18×1.2=21.6」で、21.6人が配置されるわけです。

これに校長1人とか特別の目的で配置される加配教員など、そのほかの定数が上積みされます。乗ずる数の数字が大きくなると各学校に配置される教員数が増えるので、授業担当に空きコマができて、勤務時間中に授業準備やそのほかの仕事をやれる余裕が生まれます。

広田 その乗ずる数は、1993年に少しだけ改善されましたが、それ以降、30年間も変更されていません。少子化で子どもの数は減るのだから、乗ずる数は変える必要がないと考えているのが財務省です。

しかし、この30年間で求められる教育の質は大きく変化しています。昭和の教育から平成の教育へ、そして令和の教育に移ってくる中で、学習指導要領で教員のやらなければならないことは増やされるばかりです。

さらに、教育の質もグレードアップしろとのプレッシャーも増すばかりです。少子化でも、教員のやることは減るどころか増える一方なのです。そのために教員の多忙化は進み、豊かな教育を実現するための余裕も失われています。

5年間かけて乗ずる数を1.387倍へ段階的に引き上げる

——教育の質のグレードアップを言っている文科省には、そのために教員数を増やすという発想はないのでしょうか。

広田 例えば1985年の臨時教育審議会で、改革理念の最初に「個性重視の原則」が出てきます。個性重視のためには教員の負担は大きくなりますが、そのために思い切って教員を増やさなければならないという発想は、当時の文科省にはありませんでした。

当時の文部省初等中等教育局審議官だった菱村幸彦氏に聞き取り調査をしたことがありますが、「(個性重視は)初中局の案件ではありませんでした。(臨教審での)議論の中から出てきたことでしょう。初中局としては、(個性重視で)特別に何かやらなければいけないという認識はありませんでした」との答えでした。今は何とか教員を増やしたいと文科省なりに努力していますけどね。

——文科省は「仕事を減らせ」という号令をかけていますが、実際には教員がやらなければいけないことは、どんどん増えていって、現在のような状態になっています。このままでは、教員の「働き方改革」どころか、ますます多忙化に拍車がかかることになります。

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