新技術とどう向き合っていくか
新しいテクノロジーは私たちに何をもたらすのか。昨今のイノベーションは、格差を拡大するのか、あるいは広く人々を富ませるのか──。2024年のノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者2人が、1000年の歴史を基に技術革新と所得分配の関係を考察。新技術への向き合い方に対し警鐘を鳴らす。
著者らは、「デジタル化やAIの発展がもたらす成果を、少数の成功者が独占する」ことに懸念を示す。国家間、国内における格差拡大が問題となる中で、日本企業も避けては通れないテーマだ。
▼編集者・石川大我氏に聞く
アセモグルは前著『国家はなぜ衰退するのか』(ジェイムズ・A・ロビンソンとの共著)で、「包括的制度」と「収奪的制度」という枠組みを提示し、望ましいあり方は前者に基づく社会だと強調した。次の『自由の命運』(同)では「包括的制度」の実現と維持の困難さを考察し、続く本書ではジョンソンと共に、たとえ「包括的制度」であっても、多くの場合は技術革新が権力者にのみ利益をもたらす現象に着目している。
本書には、よりよい未来を実現していくための提言が含まれる。編集者としては、「偉大な経済学者のアセモグルがこう言っているのだから絶対にこうしなければならない」というよりは、「技術革新と不平等というテーマの検討に向けた、極めて良質なきっかけの書だ」と思う。著者らの主張に全面的に賛成する人もいれば、項目ごとに賛否が異なる人もいるだろう。日本特有の状況を織り込みつつ、本書から議論を始めてほしい。
▼推薦コメント
技術革新がもたらすのはばら色の未来かそれともディストピアか……といった安易な二元論に陥ることなく、「技術革新がもたらす未来は社会の選択によって変わる」という視座を与えてくれる。最終章の政策提案は、日本にとっても示唆に富んでいる。(奥田宏二)
「歴史は繰り返さないが韻を踏む」と言われるが、著者らは現代の問題点を、歴史の振り返りを通してわかりやすく解説している。天才の功績にも画期的なイノベーションにも、光と影があることを理解できる必読書。(小林辰男)
テクノロジーと経済社会の関係について、過去から将来を見通す力作。上下巻の大部だが、考え方の大枠は上巻第1章で述べられ、AIに関する分析は下巻第9章にあるなど、興味のある箇所を選んで読むこともできる。(末吉孝行)
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