共学校よりなぜか「医学部進学」に強くなる、女子校独自の数理教育は何が違う? 医学部医学科現役合格率ランキングで見る強み
例えば、東京都世田谷区に「田園調布学園」という女子校がある。同校の国語の入試問題は、記述問題ぞろいでなかなか手強い。それもあってか、国語が得意な一方で算数・理科をやや不得手にしている女子生徒が集まる傾向にあるという。
しかし、出口である進学先を見ると驚かされる。同校ホームページの「2024年度現役進学者の系統別進学数の割合」には「『理・工系』『医・薬・農系』に49%」とあり、実に半数が理系学部に進学していることがうかがえるのだ。
これはどういう教育の賜物なのか。同校で数学科教諭・入試広報部長を務める細野智之先生に話を聞くと、中学スタート時に理系科目に取り組む姿勢をいかに変えるかが重要なのだという。
「小学生までの算数・理科への苦手意識を、中学1〜2年生の学習の中でいかにリセットできるかに努めています。女子特有の思考を考慮すると、抽象的なものをいかに具体的にイメージさせるかがポイントです。
例えば、理科の実験をしたり、立体図形の模型を作ったりという『体験』をさせた後に、関連する単元学習を始めるようにします」
なるほど。たしかに一般的に、男性より女性の脳のほうが「直感・感性」を重視するとされている。こうした特性に配慮した授業を実践できるのは、女子しかいない空間だからこそだろう。
また、細野先生はこうも言い添える。
「中学校1〜2年生くらいだと、数理が得意な男子生徒はことさらにそれをアピールする傾向にあります。共学校の場合、そうした言動を受けて引け目を感じてしまう女子生徒もいるかもしれません。一方、女子校では自然と『苦手だけど、みんなでがんばって学ぼうよ』という空気が醸成されるのも大きいのでしょう」
女子校は当然のことながら、「女子生徒のみの学び舎」だ。異性がいない、すなわち「性別という概念」が消滅する環境の中で、異性の目を気にせず思い切りチャレンジしたり失敗したりという経験もしやすいのかもしれない。
東京都港区にある女子校「普連土学園」の理科部ロケット班の活動も有名だ。数年前には、海外で開催された「国際ロケット大会」で世界一の栄冠に輝いている。
同校の英語科教諭・広報部長の池田雄史先生は、ロケット班が国際大会で優勝した際に部員の1人が発した「もし私が共学校なら、気恥ずかしくてロケットなんてやらなかったと思います。女子校だからこそ思い切り挑戦できたのです」という言葉が印象的だったと語っている。
「リケジョ」という表現を死語にするために
冒頭に言及した「医学部入試の女子差別問題」を糾弾する声を受けて、各大学が改善を図るようになってから6年が経った。
文部科学省の発表によると、全81大学が実施した2024年度医学部医学科の入試には、総数5万2298人の女子受験生が挑んでおり、件の差別問題以降では最多だったという。さらに近年、医学部医学科の女子が占める割合は約4割に上るという。
私の卒塾生でも、医学部医学科に進んだ女子生徒はすぐに思い出せるだけで10名以上はいるが、やはり女子校出身者が多く、例えば桜蔭、豊島岡女子学園、東洋英和女学院、横浜雙葉、品川女子学院などに在学していた。
残念なことに、今でもネットを検索するとさまざまなところで「リケジョ」という表現が「現役」で使用されている。この表現を絶滅に追い込むには、女子校の教育がカギを握るのかもしれない。
(注記のない写真:cba / PIXTA)
執筆:中学受験指導スタジオキャンパス代表/国語専科・博耕房代表 矢野耕平
東洋経済education × ICT編集部
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