「吹奏楽大嫌い」でも吹奏楽部主顧問から逃れられない、1校1人音楽科教員の闇 音楽関連ならすべて対応して当然?圧力に不満

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「そうした影響で校務分掌が増え、授業準備や採点にかける時間が削られます。もうベテランなので、短時間の準備でも授業自体はできますが、しっかり資料を作れば生徒の理解が深まったかもしれないのに、と感じることが増えました。もっと手厚い授業ができていれば、成績をもう一段階上げられたであろう生徒を見ると、本当に申し訳ない気持ちになります」

そうは言いつつ、高木さんは教員間の負担が違ったとしても、教員として取り組まなくてはならない業務は受け入れると話す。我慢ならないのは、勤務時間外で「担う必要がない」にもかかわらず、優先的に取り組まざるを得ない部活動の存在だと力を込める。

「顧問を一切望んでいなくても、自ら選んだ体で全責任を負わざるを得ないことが本当に納得できません。『手当が出ればよいのに』と考える先生も多いようですが、私にとってはお金の問題でもありません。罰金を払ってでも部活動の顧問を免除してほしい、それくらいに部活動が嫌いです」

部活動の顧問に費やす時間を、本来やるべき授業準備や採点にあてたい。それができない現状は本末転倒であり、「部活動は学校から切り離して、地域のクラブでやればよい」と高木さんは主張する。

吹奏楽部の独特な体制に耐えきれない音楽科教員も

「生徒からしても、私のように後ろ向きで専門性のない教員に片手間で指導されるより、専門家にきちんと指導してもらうほうが幸せでしょう。吹奏楽は、音楽界の中でも独自の進化を遂げた分野です。クラシック音楽を学んできた教員には対応しきれず、精神疾患を発症して休職する音楽科教員も少なくありません」

吹奏楽特有の音の出し方や処理の仕方、楽譜の読み方に対して音楽的な違和感を受けてしまい、耐えきれず心身のバランスを崩してしまう教員もいるそうだ。それに加え、吹奏楽部は「自主練習」という名目で早朝から夜遅くまで長時間活動する学校も珍しくない。

「とくに管楽器は部活動で初めて触れる生徒が多く、当然ながら、練習すれば練習するほど上達します。そのため、長時間練習を強いるスパルタな顧問ほど、大会で結果を出して感謝されたり、親の支持を得たりするのです。結果を収めれば、校長や他の学校の顧問からも一目置かれる存在になれます」

長時間の拘束だけでなく、会場まで楽器をトラックで運んだり、大会前に講師を呼んだりホール練習をしたりと、なにかと費用もかかる。それでも、結果が出れば部員も親も乗り気になり、過剰な練習量や費用に問題意識を抱かなくなるのだ。高木さんが、とある勤務校の吹奏楽部で文化庁のガイドラインに沿った部活動運営をしたところ、前任の顧問を慕う部員や親、さらには校長から大ブーイングを受けたという。

もちろん、やればやるほど上達できるのは大きな魅力だし、吹奏楽を素晴らしい音楽と評する人も大勢いる。しかし、それは果たして、多大な負担を強いてまで部活動で行わなければならないことなのだろうか。そして、教員が、本業とプライベートを圧迫してまで勤務時間外に指導すべきことなのだろうか。音楽を愛している高木さんに、「吹奏楽は大嫌い」と言わしめるほど教員を追い詰めているという現状を踏まえたうえで、考えたいところだ。

(文:高橋秀和、写真:Mio.N / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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