いわく、「音楽科でもないほかの先生に押しつけるのか」「チームで働くという意味が理解できないのか。自分のことだけ考えていては、復帰しても嫌われるぞ」、「みんな子育ても介護も頑張っている。家庭の事情を仕事に持ち込むのは甘えだ」……。
ひどい言葉を次から次へ畳みかけられ、挙げ句の果てに「主顧問ができないなら、進路指導主事をやってもらう」と持ちかけられた。進路指導主事は、中学3年生の進路指導の責任者だ。あまりに責任が重いうえ、進路指導の中心として教職員の統制や指導・助言、高校からの窓口対応もしなければならず、激務とされる役割だ。
「脅しだろうとは思いましたが、怒りに任せて本当に配置させられるのではないかという恐怖が先立ちました。いざ家庭の事情で進路指導が不十分になれば、生徒たちに対して取り返しがつきません。結果、吹奏楽部の主顧問を引き受けるしかありませんでした」
音楽科教員であるがために、部活動の主顧問を当然のように押しつけられ、大切にしたかった子育てや介護に妥協を強いられ、不当な罵倒まで受ける。屈辱の大きさに、思わず涙がこぼれたと振り返る高木さんだが、話はそこで終わらなかった。その年の教員の定期評価で、過去に一度もなかったC評価を受けたのだ。自治体によって評価基準は異なるが、当時の勤務校の自治体では、C評価は「求められる基準に足りない」という意味。昇給の対象外になる可能性もある。
「理由は、『チームで働くという意識が低い』というものでした。主顧問をめぐるやりとりが影響していることは明らかです。最終的に主顧問を引き受けたにもかかわらず、『ごねた』という事実でこうした評価をつけられたのです。しかし私は、勤務時間内で教員がすべき業務は、むしろ進んで取り組んでいました。特別支援学級で免許外の教科を教えたり、不登校の生徒を対象にした適応指導教室も担当していました。授業など、勤務時間内の本業への指摘で評価が下がるのは甘んじて受け入れますが、勤務時間外の業務への姿勢で低評価を受けることには納得できません」
とはいえ前述のように、一度引き受けてしまえば「自発的な取り組み」とみなされる。平たくいえば「好きでやっていること」なので、子育てや介護など家庭の事情との調整は自分の責任でやれ、ということだ。「理不尽です」と短く言い切った高木さんの言葉には、やるせなさがにじむ。
顧問を辞められるなら「罰金を払ってもいい」
高木さんは、「教員間の負担が平等ではない」ことにも違和感があるという。
「音楽科教員は、吹奏楽部の顧問を任されるだけでなく、必ず主顧問にされるんです。音楽の指導だけで済めばまだいいですが、練習計画の立案から会計業務、生徒間のトラブルや親とのコミュニケーションなど、とにかく時間がとられます」
副顧問も一応いるが、部活動にはめったに出てこない。土曜の練習日、高木さんに大切な用事ができたため1日だけ代理をお願いしたが、プライベートを優先されたという。
「それが『推しのライブ』だったと知って脱力しました。副顧問は新採用の先生なので、校長や教頭も非常に気を遣っているんです。たしかに今は教員不足で、とくに若手の先生は少ないので大切にしようというのはわかります。でも本音を言えば、すごく不公平だと思うのです。私を含め、40代の教員は新任のときからずっと負担が重かったのに、今でも若手の先生の分まで負担を負わなければいけません」
2023年12月に文部科学省が発表した調査では、精神疾患で休職した教員が2年連続で過去最多を更新している。「私の勤務校でも何人も休職している先生がいて、頑張れる教員の負担が増している」と高木さんは明かす。