ブレア回顧録〈上・下〉 トニー・ブレア著/石塚雅彦訳 ~政治家の理念と言葉の大切さを再認識させる
評者 中岡 望 東洋英和女学院大学教授
政治家の回顧録はあまり面白くないのが普通である。たとえば、ブッシュ前米大統領の回顧録は自己弁護に終始していた。あるいは手柄話で埋め尽くされた回顧録は数えられないほどある。
その点、本書は他の回顧録とは異質であり、知的な刺激に富んでいる。著者は1997年から2007年までの約10年間、英国の首相の座にあった。18年続いた保守党政権を総選挙で破り、「かつて味わったことのない恐れ」を抱いてダウニング街に足を踏み入れた日から辞任に至るまでの記録である。
邦題は『ブレア回顧録』だが、原題は『A JOURNEY(旅路)』である。著者は「この本を昔ながらの政治回顧録とは違った物にしたい」と序文に書いている。さらに「私は一つの型のリーダーとして出発し、別のタイプのリーダーとして終わる。本書を『旅路』と呼ぶのはそのためである」。首相在任の10年間を時系列で書き記したものではない。重要テーマ別に章を立て、事実にとどまらず、冷静な分析が加えられている。
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