「アシュレイ・マディソン」は悪者といえるか 不倫は生物学的に説明できる行為に過ぎない
ここで、この問題の本質を考えてみよう。
前述のように、不貞は聖書の時代から存在している。不貞行為を容易にするために設計されたウェブサイトのハッキングはユニークな現代の現象といえるだろうが、別段、不倫が新しい行為ではないのだ。そこでロイターは、不貞行為の研究を専門とする、人類学者や心理学者の3人に尋ねた。このサイトはどのような役割を演じているのだろうか。
「不貞に興味を持っていない人が、アシュレイ・マディソンのようなサイトがあるからといって不倫に走ることはありません」。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の心理学部のジョン・マネル教授は言う。「しかし、不倫に気持ちが傾いてはいるものの、どうすればいいかわからない、あるいは人に見つかるのを恐れる人にとっては、オンラインサイトは、簡単で安全なルートを提供します」。
サイトを利用する人々は、日常的に不倫を行うようになる。そして、こうしたサイトの存在は、一部の人々にとって自分の行為を正当化させることにも繋がる。「研究によると、特に女性が影響を受ける」と、ネバダ大学ラスベガス校の結婚及び家族セラピープログラムのキャサリン・ハートレン教授は述べる。「アシュレイ・マディソンのようなサイトは、不倫が正常な行為のように感じさせる。そのため、もともとは引き金を引かないような人が不倫に走る可能性があるだろうと考えています」。
個人的なやりとりを可能にする技術の進歩にもかかわらず、米国での離婚率は1980年代から減少を続けている。現代の広範な技術は、出会うことを簡単にしたが、別れるのも簡単。インターネットは、現代の恋愛にとって両刃の剣なのだ。
「確かなことを知るには時期尚早ですが、アシュレイ・マディソンのようなオンラインサイトでは自分自身を簡単にごまかすことができます」と、前出のマネル教授は言う。「皮肉なことですが、オンラインサイトでは、きわめて簡単に恋愛関係のパートナーを見つけることが可能ですが、それと同時に、そのパートナーを裏切って別れることも簡単です」。
女性にとっての不倫とは?
ハートレン教授は言う。「歴史的にみると、男性はより多くの機会があるため、不倫をする可能性が高かったのです」。妻が郊外の家にいる間にマンハッタンで大騒ぎをしていたドン・ドレイパーが、その好例だ。また、教授は「女性は感情的な理由で不倫をするが、男性の不倫は身体的衝動が多い」と付け加えた。
肉体的な不倫部分にばかり注目が集まりがちだが、こうしたオンラインサイトの役割はそれだけではないのだ。「女性はオンラインで他人に対して自分のことを話す中で心が動かされていく。配偶者ではない人と親密な関係にあることを自覚するのです」(ハートレン教授)。「インターネットは、女性の不倫方法として向いています。それは感情的、心理的な不倫の手段を提供しているのです」。
流出したデータをみると、アシュレイ・マディソンの会員の大半は男性。そう考えると、アシュレイ・マディソンはあくまで生物学的傾向の上に存在しているだけとも説明できる。
人類学者のヘレン・フィッシャー氏は「ダーウィンの進化論」を挙げる。「何百万年もの間、変わっていないことがある。男性が妻との間に2人の子供を持ち、別の女性とも2人の子供を持ったとしましょう。そうすると彼は2倍のDNAを次世代に広めることができるわけです。多ければ多いほど、彼のDNAが継承される可能性が高まる。逆に、女性が夫との間に2人の子供を持ち、さらに別の男性との間にも2人の子供を持つとすれば、それは、彼女の夫が死んだあとか、彼女のもとを離れた後です」。彼女は付け加える。「私は42件の不貞のケースを見ましたが、すべて生物学で説明できるものでした」。
(ヘレン・コスター記者)
※ヘレン・コスターは、ロイターのシニア編集者。記事内の見解は彼女個人のものである
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