不登校児童生徒の教室外の学びを「評定」につなげるため奮闘、元教頭の本気 フリースクールを開校して学校と積極的に連携
「新しい環境で学校生活を楽しみたい」という子は多い
なぜ大石氏はそこまで学校連携に奮闘するのか。それは、子どもたちが秘めている思いに気づいたからだという。
「全日制がよくて通信制がダメということではないのですが、中には不登校で成績がついていないから無理だ、と諦めて通信制を選ぶ子もいます。そういう子に『願いが叶うならどうしたい?』と聞くと、『高校で写真部に入りたい』と言ったりする。僕は大学時代にいわゆる非行少年の家庭教師を次々と引き受けていたのですが、その中にも『俺も高校に行きたい』と言う子がいました。多くの子は、友だちと一緒に昼ご飯を食べたり、帰りに寄り道したり、楽しく過ごしたいと思っているのです。実際、中学時代に不登校を経験した子が高校に入ってガラッと変わり、学校に行けるようになったケースはたくさんあり、もっと進路の選択肢を広げてあげたいです」
いじめで不登校になった子、先生や学校の方針が怖くて学校に行けなくなってしまった子も、学校が嫌いというより、自分の今のクラスや学校が怖いのであって、「新しい環境で学校生活を楽しみたいと思っている子は多い」と大石氏は話す。
そうした本音を言えない子もいるので、アリビオではアサーショントレーニングやアンガーマネジメントなどのソーシャルスキルトレーニングも行っている。
「アリビオで自己肯定感が回復し、勉強の遅れも取り戻した頃、『授業が怖くなくなった』と言って学校に復帰する子もいます。相談だけ来て『ダメになったらここに来ていいですか?』と言って、その後毎日登校している子もいます。いざというときに助けてくれる人がいるというだけで人間は頑張れることもありますから、そういう場になれたらと思っています」
大石氏は経験上、何らかのいじめが引き金となり、不登校になる子どもが多いと感じている。そのため、子ども・保護者と学校との中立の立場として、いじめ問題の解決にも介入しているほか、「長崎の子どもたちをいじめから守る市民の会」を立ち上げ、いじめ防止対策推進法の周知や、市議会へのいじめ対応の充実を求める陳情なども行っている。今後は、「いじめの予防対策や解決につながる出前授業にも力を入れていきたい」と話す。
法令改正でより「学校外施設との連携」が重要に
文科省は、2023年にも「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」において、学校外施設や自宅などでの学習が成績に反映されるようにすることを明記した。しかし、「多様な学びの場は確保できましたが、学びの確保ができていないのが現状。学校の先生方に文科省の通知が十分周知されていないことが課題」だと大石氏は指摘する。
こうした中、文科省は8月29日、不登校児童生徒の欠席中の学習成果を成績に反映できることを法令上明確化するため、学校教育法施行規則を一部改正した。評価の要件として、学習の計画・内容が教育課程に照らし適切であること、教育支援センターや民間団体等との連携、不登校児童生徒と学校の関わりの維持などを挙げている。
そのため今後、学校側は成績評価に関して積極的な姿勢が求められ、学校外施設との連携もさらに重要になるだろう。しかし、教職員はすでに両手いっぱいに荷物を持って走り続けている状態だ。子どもたちの学びを確保して選択肢を広げるためには、教員や学校の視点に立った連携についてもさらに議論・検討する必要がありそうだ。
(文:吉田渓、写真:フリースクールアリビオ提供)
東洋経済education × ICT編集部
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