不登校児童生徒の教室外の学びを「評定」につなげるため奮闘、元教頭の本気 フリースクールを開校して学校と積極的に連携
「2019年の通知には、自校の児童生徒がフリースクールなどの学校外施設に通っている場合、学校が主体となって積極的に連携して学びを評価することの意義が書かれていました。しかし、今の学校現場はいっぱいいっぱい。生徒数の多い学校では不登校の生徒が40人、つまり1クラス分くらいいるわけで、いくつもの学校外施設と連携することは難しい。別室登校の生徒も十分に支援できていないのに、外部との連携は無理だろうと思いました。実際、全国的にも学校と連携して評価まで踏み込んでいる学校外施設は見当たらず、『僕が学校外施設を作って不登校の子と学校をつなぐ役割を全部やればいいんじゃないか?』と思ったのです」
最も時間をかけるのは「自己肯定感の回復」
2023年3月に長崎市立中学校を退職した大石氏は、同年7月に長崎市内にフリースクールアリビオを設立。小学校から高校生を対象にしており、現在、小学生1名と中学生4名が在籍している。

主な活動は①登校が難しい、教室で授業を受けていない子の支援、②子どもや保護者の相談への対応、③教員の相談への対応、④その他(自宅を訪問するアウトリーチ型支援、講演会・研修会、いじめを中心とした出前授業)の4つ。不登校の子を学校とつなぐ支援は①に該当する。具体的にどのような支援を行っているのだろうか。
「不登校の子の多くが人と接していないので、まずは家から出て家族以外の人と話して褒められることが大切です。信頼関係ができたら、自己肯定感を回復・向上させる心理的支援を行います。ここに一番時間をかけますね。次に勉強です。勉強が遅れている子がほとんどですから、その子がつまずいたところまで戻ります。ポイントを押さえて学べば数カ月で当該学年まで追いつくので、『ここで学校の勉強をしてみる?』と聞きます。『うん』と答えた子は、学校の授業に沿った勉強を支援します」
この段階にくると、本格的に学校との連携を始めるという。
「僕が用意した“学習支援連携シート”を学校にお送りして、これから学習する単元と、評価材料(テスト、プリント、課題・作品等の提出物)を教科ごとに記入してもらい、送り返していただきます。それを生徒と保護者、僕が共有し、家でできることとアリビオでできることを振り分けて学習を進めます。その取り組みの成果を学校に提出することで、個人内評価も含めて評価をつけてもらっています」
不登校児童生徒が学校外でテストを受けることが認められないこともあると聞くが、大石氏は可能だと言い切る。
「単元テストや定期テストは僕が学校に取りに行き、教室でテストが行われる日にアリビオで僕の立ち会いの下で実施し、その日のうちに答案を学校に持っていきます。先生はテストが終わって10日くらいで評定(成績)を出します。その時点で提出されていなければ評定から外されてしまいますし、中には『リアルタイムでやっていないのにテストじゃなかろう』という先生もいますから。“同じ日に行い、その日のうちに持っていく”ことを大切にしています」
学校連携で重要なのは、担任ではなく、“学校”とやり取りすることだと大石氏は語る。
「教頭などの管理職とやり取りすれば、それは学校とのやり取りになりますから、全教科の先生方と連携できるようになります。実際、去年アリビオにいた中学3年生の子はアリビオで教材を使った学習を行い、学校の別室でテストを受けた結果、個人内評価も含みますが、ほとんどの教科で評定がついて全日制高校に合格しました」
“その日のうちに”が重要なのは、テストだけではないようだ。
「例えば、“今日、この生徒が来て勉強しました”という報告も、在籍校にその日のうちに報告しています。すると、学校側はその子の状況をその日のうちに記録でき、スムーズに事務処理ができます。本来なら学校が連携の主体となるべきではありますが、学校外施設も学校や先生にしっかりと歩み寄り、『できることを一緒にやらせてください』というスタンスで“子どもまんなか”の支援を考えることが大事だと思っています」