平田オリザ、なぜ「演劇教育」が主体的・対話的で深い学びの実現に有効なのか 演じる、フィクションの力を使った学びの効能

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早くから演劇教育を導入した地域の一つに香川県の小豆島がありますが、その背景にあったのが町長と教育長の経験です。幼稚園から高校まで一緒だった同級生の2人は、大学進学を機に島を出て初めて“自分のことを知らない人たち”と出会い、苦労したそうです。知り合いしかいない環境でずっと生きていくという選択肢もありますが、約7割の子が島から出る今となっては、そうもいきません。『自分たちと同じ苦労はさせたくない』という2人の思いから、他者理解のコミュニケーション教育として演劇教育を導入したのです」

自分が必要とされているという実感

では、具体的にどのような授業を行っているのだろうか。対象は小・中学生から高校生まで幅広く、学校向けでは教員研修や保護者向けの講演を組み合わせて行うことが多いという。もちろん、教材もオリジナルだ。

「学校や地域によって目的や課題は異なります。他者理解に重きを置きたい、その後の探究型授業に結びつけたいなどそれぞれですから、依頼を受けるとまず、最終的に何を目指しているかをお聞きして、学校の先生や教育委員会の担当者と一緒にカリキュラムを組んでいきます。私が主宰する劇団・青年団の団員や、NPO法人のメンバーが担当する部分もあります」

例えば埼玉県富士見市では、「子ども文化芸術大学」(教育委員会主催)と題し、市内全域から希望者を集めて10年ほど演劇教育の授業を実施しているが、年6回ある授業の1つを平田氏が担当している。実際、7月に行われたワークショップを訪れると、市内全域から小学4〜6年生の子どもが20名ほど集まってきていた。

まずは全員で輪になり、簡単なゲームを通じて互いに親しんだあと、6人程度のグループに分かれ、朝の教室のワンシーンを題材とした台本をもとに配役を決める。セリフの語尾に加えて、細かな設定は変えてもいいというルールで、「先生がやりたい!」「転校生は長野ではなくて東京から来たことにしよう」……など、グループで話し合う。

埼玉県富士見市で行われた「子ども文化芸術大学」のワークショップ

この発表と振り返りを行った後は、朝の教室のワンシーンという設定はそのままに、自分たちで台本をつくっていく。あらためて配役を決め直し、「先生が教室に入ってくるまで転校生の噂話をしているのはどうかな」「大阪からの転校生ということにしてセリフを関西弁にするのはどうだろう」……などと細かな設定やシチュエーションまで、子どもたちは次々にアイデアを出しながら物語をつくっていくのだ。

細かな設定やシチュエーションまで、子どもたちは次々にアイデアを出しながら自分たちで台本をつくっていく

3時間という時間もあっという間で、最後の発表は大いに盛り上がった。1回目の発表に比べて声も大きく細かな演技も入って、より劇らしくなっていたのはもちろんだが、何より子どもたちがいきいきとしていた。学校で行う場合も、続きの3コマ(時限)を使って、このような流れで行うことは多いという。

「演じることは他者理解に通じます。セリフを考えているうちに、『この人はなぜこんなところでこんなことを言うんだろう』とか『なぜこの人は黙っているんだろう』と自分の役や、ほかの人の役について自然と感じ取れるようになっていくからです。また、演劇では異なる意見があったときに折り合いをつける必要が出てきます。こうした合意形成を図ることも、他者理解に通じるでしょう。

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