ところで、ロシアはルピーをどう処分しているのか。ガスプロムバンクやロスバンクに代表されるロシアの銀行は、UCO銀行やHDFC銀行といったインドの銀行にルピー建ての口座(ボストロ・アカウント)を開設している。この口座を通じて、ロシアの輸出業者はインドの債券や株式を購入し、使う当てのないルピーを処分し始めたようだ。
インドにとってこの仕組みは、国内向けの投資の増加につながるため、メリットが大きい。一方で、この投資によって得た収益もルピーとなるため、ロシアにとってのメリットはそれほど大きくない。それでも、使う当てのないルピーを余らせておくよりは実利的だという判断から、ロシアはこの仕組みでルピーを処分するようになったのだろう。
またロシアの業者がインドの業者から金(ゴールド)を買い、それを周辺諸国でハードカレンシーに換金して送金するというスキームも検討されているということである。しかしこうしたスキームで決済できる金額には限界があるし、また実際に決済が行われ入金処理が行われるまでにかなりの時間がかかると考えられるため、実行力に乏しそうだ。
もちろん、ロシアとの友好関係を重視するインドは、ともにルピー以外での決済の在り方を模索し続けるだろう。一方でロシアとしても、貴重な需要家であるインドを失うわけにいかないため、ルピーでの支払いに応じ続けると考えられる。結局、ロシアとインドの貿易は、今後もしばらくはインドに有利なままで行われることになると考えられる。
ギクシャクし始めた両国の関係
留意しておくべきは、ここにきてロシアとインドの関係がねじれ始めていることだ。7月9日、インドのモディ首相はロシアの首都モスクワを訪問、プーチン大統領との間で首脳会談が行われた。この席でインドは、ロシア軍に兵士として雇われ、帰国を希望しているインド人を早期に帰還させることをロシアに要求、双方がその実施で合意した。
ロシア軍は外国人を雇うことで不足する兵力を補っているが、インド人兵の多くはブローカーに騙されて従軍し、ウクライナとの戦闘の最前線に送られている。そうしたインド人の早期帰国で双方は合意したはずだが、インドの全国紙インディアン・エクスプレス紙は、首脳会談後もインド人兵がウクライナとの戦闘の最前線に送られていると報じている。
インドとしては、このロシアの対応を到底受け入れることはできない。7月9日の会談でも公式日程の一部がキャンセルされたが、これは会談が不発に終わったことの証左であるという見方もあるようだ。7月以降にインドのロシア産原油の輸入量が激減した場合、こうした両国間の関係のねじれが反映された可能性があることに留意したい。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら