「男性養護教諭」はなぜ少ない?問題は性別でなく「選択肢がない点」の理由 "ケア職=女性"の社会的観念が採用にも影響
「健康診断、特に内科検診などプライバシーへの配慮がいっそう求められる場面では基本的に同性の対応が原則ですが、ある勤務校で女性教員が不在の年がありました。私は生徒たちに『今年は男性の先生しかいないけど、内科検診をやらないわけにはいかない。生徒も先生も、全員が嫌な思いをせずに終えたい』と説明し、アイデアを求めました。すると女子生徒たちが率先して行動し、プライバシーに十分配慮がなされた会場設営が実現したのです。当初は女性の事務職員さんへの応援要請も考えていましたから、彼女たちには感謝でいっぱいでした」(長野氏)
「例えば宿泊行事で体調不良になった子を部屋で看病する場合は、同性の先生に依頼します。こうした対応は事前に保護者に説明し、同意を得てから進めています」(津馬氏)
ほかにも、女子児童生徒が腰まわりなどの下半身を怪我した際に自ら患部を見せてきた場面において、プライベートゾーンについて指導するなどといった対応もしているようだ。
身体接触を伴う場面での児童生徒との関わりにおける意識
長野氏も津馬氏も、キャリアを重ねる中で、性別にとらわれず1人の養護教諭として、児童生徒や教職員との信頼関係をいかに築くかを意識するようになったという。
「体や見た目の男女に関係なく、応急手当てなど身体接触を伴う場面においては必ず声をかけています。これは、相手が小学校低学年でも高校生でも同じです」(長野氏)

「子どもたちには、救急処置の場面で不安を感じたら、『触らないで!』『いや!』ではなく、『ちょっと待って』『今からどうするの』と聞いてくれると円滑だとも伝えています」(津馬氏)
長野氏は、定時制高校での勤務時代に性教育にも取り組んだという。
「定時制には成人の生徒もいます。過去に、摂食障害を経験して月経不順に悩む女性生徒がいました。パートナーがいて妊娠の可能性も心配していたので、基礎体温の測定方法などを伝え、自身の身体について保健室でともに勉強することもできる旨を伝えました。次第にほかの生徒も加わり、『女性特有の病気についても知りたい』などの要望が出るなど、ともに学び合うとてもよい機会になりました。生徒たちには私が“男性だから”という抵抗感はなく、養護教諭は男性・女性の枠にとらわれず必要とされる実践を重ねていけるのだと感じた経験でしたね。
また私自身は幸い、『男性養護教諭は心配』とか『女性がよかった』などと言われた経験はありません。しかしほかの男性養護教諭の中には、辛辣な言葉をかけられた人もいるようです。ただ、こうした言葉はつねに大人たちからのもので、子どもたちは私たちの存在をフラットに捉えてくれています」(長野氏)
とはいえ、今でこそ理不尽な経験はないと語る長野氏も津馬氏も、就職活動時には多少の違和感を覚えたという。
採用時は「男性だから」と違和感のある対応も経験
「実は、全寮制フリースクールの寄宿寮の職員兼養護教諭にも応募していたのですが、採用直前で稟議にかけられ、『男性では難しい』と採用を断念されたことがありました」(津馬氏)
「とある自治体の個人面接試験で、最初の質問が『男性養護教諭の弱みは何ですか』でした。多くは、その自治体を希望した理由や養護教諭を志した動機などが一般的かと思います。異性への配慮が必要なのは当然ですが、『そういった点は女性養護教諭でも同じではないか』と疑問に感じました」(長野氏)