シチズン「史上最も売れた」時計はなぜ生まれたか モノ作り面だけでない新たなヒットの要素も

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ただ、大ブレイクの要因は商品面だけではない。契機となったのが、2022年に販売を開始したフランスで、この時計に「愛称」がついたことだった。

その愛称が「TSUYOSA」。誰がつけたかは不明で、日本語の「強さ」という意味があるわけでもない。何となく日本語らしい響きという程度のものだったようだ。

それが瞬く間に、SNSで拡散。ファンの共通言語として浸透した。「TSUYOSA」のハッシュタグがついた投稿は、フランスからはもちろん、欧州全域、インドネシアなどアジアからも発信され、2024年2月時点で7500件以上に達する。

ネット上の拡散をシチズンが「追認」

もう1つ、ネットで拡散した要素として「比較対象」があったことが挙げられる。

ちょうど同じ時期に、スイスの時計ブランドが同じようなコンセプトの時計を発売していた。比較対象があると、人は商品の特徴を捉えやすくなる。実際、YouTubeには、時計メディアや個人コレクターが商品のスペックや装着感を比較する動画であふれた。拡散したネット上の情報が一般消費者にもリーチし、「気になる」から「購入を検討する」段階にまで関心を引きつけた。

黄色カラーを前面に打ち出したフランスの店頭広告(写真:シチズン時計)

そして、こうした事態をシチズンが「追認」する。このコレクションには品番しかなかったが、公式にブランド名を「“TSUYOSA” Collection」としたのだ。公式ブランド名には引用符が付くが、そこにはもともとファンが付けた愛称という意味合いがある。

ファンによる愛称をブランド側が正式に採用するのは珍しい。シチズンではブランドマネージャーに商品企画部、宣伝部などが加わり検討したが、議論は二転三転したという。海外向け商品の開発責任者・平松恭典氏は、「最初はダメだろうなと思っていたが、今までと同じことをやっていても仕方ない。新しい試みだからこそやってみようということになった」と振り返る。

「“TSUYOSA” Collection」は現在、欧州における時計売上高の約2割を占める。今回のヒットが市場拡大に大きく貢献し、2023年度、シチズンの欧州向け売上高は699億円と、過去10年間での最高水準に達した。

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