9年生(中3)は、修学旅行の探究やスタートアップ企業との対話を通して、自分のキャリアについて考え、進路選択につなげていきます。また、探究の結果を最終的に卒論にまとめていきます。
修学旅行は京都奈良ですが、一般的な修学旅行とは違い、訪問先は生徒主体で決めるので、京都大学や奈良にある先端技術の研究所、任天堂や地元のスタートアップ企業など多種多様。しかも、事前学習も単なる調べ学習ではありません。
デザイン思考の手法を使って、訪問先の課題を設定して課題解決の提案を行い、現地でフィードバックをもらうのです。取材時は、出発を直前に控え、グループごとに自分たちが作った提案を披露し合って、ブラッシュアップしていました。


(写真:渋谷本町学園中学校提供)
今回、従来のシブヤ未来科の取り組みを拡大する形で、年間を通した探究プログラムが行われるようになったのですが、その最終ゴールについて「学び全体を子ども主体にすること。探究の時間だけにとどまらず、教科指導全体を問題解決型にしていきたいと考えている」と松村氏。清野校長も、「従来の総合学習の枠組みの中ではなく、学校教育を根本的に変えていく意気込みで取り組んでいる」と言います。教育改革への本気度を感じました。
教科横断型の学びで学力向上?学びへの興味関心が高まっている
一方で、学力の担保についての懸念は残ります。教科学習の時間が1割減って、定められた履修内容はカバーできるのでしょうか。
これについては、「まったく問題ない」と清野校長。むしろ、探究に取り組んだことで、英語のGTECのスコアが過去5年で最も高くなり、ほかの科目も、当初あまり学力が高くなかった学年でも、業者テストで都の平均を上回る結果が出ているのだそうです。どういうことでしょうか。
これについては、探究の時間にテーマに合わせた教科横断型の学びができること。また、英語の多読の時間が取れたり、数学の統計処理を探究的に学べたり、教科の特色を生かした探究の授業ができることで、より本質的な学びへのアプローチが可能になり、生徒の学びへの興味関心が高まっているからではないかと分析しています。
「実際、生徒たちは、探究の時間は10分休みも遊ばず、次の授業準備のために教室に集まってくるなど、学習に対して意欲的になった」と福守教諭。また、不登校気味の生徒も、探究の時間を目指して登校するようになったとか。
これは、生徒自身が学びのおもしろさを感じているからこそでしょう。教育委員会としては、今後、主体的な学びを促す授業スタイルが学力の向上にどう関係しているか、クロス統計を取って検証していくそうです。

このように、短期間の間に成果が出ている渋谷区の取り組みですが、課題もあります。
総合の時間が増えれば、教員の教材準備の負担が増えます。また、探究は、生徒だけに任せていては深まりませんが、教え込まずに子どもの力を引き出すサポートはただでさえ難しく、先生の指導力にも差が出ます。