安易な「イノベーション礼賛」に一石を投じる書 『Invention and Innovation』など書評4点

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ブックレビュー『今週の4冊』

 

[Book Review 今週のラインナップ]

・『Invention and Innovation(インベンション アンド イノベーション) 歴史に学ぶ「未来」のつくり方』

・『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」23年間の記録』

・『会社をつぶさない 社長の選択』

・『熊楠さん、世界を歩く。 冒険と学問のマンダラへ』

『Invention and Innovation(インベンション アンド イノベーション) 歴史に学ぶ「未来」のつくり方』バーツラフ・シュミル 著
『Invention and Innovation(インベンション アンド イノベーション) 歴史に学ぶ「未来」のつくり方』バーツラフ・シュミル 著/栗木さつき 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

評者・経営共創基盤共同経営者 塩野 誠

日本企業では長年にわたり発明とイノベーションが魔法の呪文のように扱われている。「イノベーションを起こせ」という号令の下、イノベーションの名を冠した部署がつくられてきた。経営者はAI(人工知能)や量子コンピューティングなど次々現れる(ように見える)イノベーションを事業経営に取り込もうと必死だ。

一方でそうした技術の仕組みを正確に理解し、何がどこまで実現可能となっているかを語れるビジネスパーソンは多くはないだろう。とくに、文系を自認する人は、理解することを最初から諦めているかもしれない。

安易な「イノベーション礼賛」に一石を投じる冷静な視点

本書は、ビル・ゲイツもファンだと公言する、カナダ・マニトバ大学の特別栄誉教授である著者が、発明とイノベーションの歴史を丹念に綴(つづ)った力作である。近年はイノベーション礼賛の書籍が並ぶが、そんな中、本書に通底するのは、客観的事実を見据えようとする冷静な眼だ。

著者が述べるように、あるイノベーションについて成功か失敗かの判断を下すのはわれわれの社会であり一個人ではない。米シリコンバレーのベンチャーキャピタルやイーロン・マスクは未来を見通す水晶玉を持っている、と信じる日本企業にこそ本書が必要だろう。歴史と事実の分析こそが王道である、と。

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