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「ソ連を維持する必要がある」黒い大佐は言った 佐藤優の情報術、91年クーデター事件簿57

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「それで、外務省に入ってマサルの考えは変わったか」と、ソ連人民代議員で「黒い大佐」と呼ばれたヴィクトル・アルクスニス氏は尋ねた。「変わった部分と変わらない部分がある」と筆者は答えた。

「どのような部分が変わったか」

──大学で勉強していた頃は外交官の実態について僕は知らなかった。外交官を含め官僚は自分の出世しか考えていない人たちだと思っていた。しかし外務省のソ連課に勤務して、この人たちは本気で日本の国家と国民のために私生活を犠牲にして働いているのだと感じた。外務省は午前9時半に仕事が始まり、公式には午後6時に終わる。だが実際の仕事が終わるのは午前1時か2時だ。日付が変わる前に仕事が終わると「今日は早く終わってよかった」と感じる。

「どの国もエリートは長時間働く。ソ連共産党中央委員会の幹部職員も日付が変わる前に帰宅することはおそらくないと思う」

──クーデター事件の3日間、ソ連共産党中央委員会の建物を深夜に何度か偵察したが、電気が灯っていて人影が見えた。

「ただ、何のために働いているかが重要だ。国家の緊急時に中央委員会のエリートたちは機能しなかった。だから今日の事態を招いた。その点は、僕たち『ソユーズ』に属する人民代議員も同じだけれどね。ほとんどの代議員が、早朝から日付が変わるまで働いていた。しかし、ソ連国家はどんどん弱っていった。もっとも僕は政治家だから、どんなに状況が悲観的であってもソ連国家が生き残るために、最後の瞬間まで努力しなくてはならないと思っている」

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