止まらぬ円安の「1200兆円の借金よりヤバい」現実 小手先の日銀介入では隠せない「本当のリスク」

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岸田政権の「資産所得倍増プラン」は積極的な投資を後押ししているが、昨年の日本株市場は、その活況とは裏腹に、上場企業の新規株式発行による資金調達は2兆円にも満たなかった。これに対し、上場企業による株の買い戻し(自社株取得枠)が10兆円近かったことを考えると、資金需要の低さがうかがえる。

「外国のために何ができるか」を考える

日経平均の上昇を礼賛している場合ではない。投資マネーが有効に活用されていない現実が存在している。

小説『きみのお金は誰のため』の中でも、日本経済が直面している問題について、先生役のボスが警鐘を鳴らしている。

その反論に、ボスは首を振った。
「そうは問屋がおろさへんで。日本円が使い物にならへんと、外国の人たちは日本円を欲しがらなくなる。日本円の価値が下がって、誰も食料や石油を売ってくれへんやろな。そうならんためにも、貿易赤字は無視でけへん」
(中略)
「七海さんのわだかまりは解消できたやろか。僕らは借金と引き換えに今の生活を送れているんやない。借金と同じだけ預金が存在しているし、今のところは、外貨をたくさん貯めている。せやけど今がふんばりどきや」
「私たちの生活は、過去の蓄積の上に成り立っていることには変わりないんですね。将来にツケを残さないためにも、外国に頼るだけではなくて、外国のために何ができるかを考える必要がありますね」
(『きみのお金は誰のため』192ページより)

食料、エネルギー、資源など生活に必要な商品を外国に頼っている日本は、国際市場を無視できない。外国のために何ができるか(外国にどんな製品を売れるのか)を真剣に考える必要がある。それが難しいのならば、自給率を高めることを考えないといけないだろう。

一般消費者にとって円安は物価高の元凶であり、恩恵を受けているのは外貨に投資できる人に限られているのが現状だ。

円安を止めるために、日銀が利上げをすればいいという声もある。そうすれば、たしかに投資家たちのお金はドルではなく円に流れるだろう。

しかし、引き上げられた金利を支払う人の負担は増える。つまり、国債(政府の借金)金利や、住宅ローン金利の上昇を通して、国民の負担が増えてしまう。

いずれにしても、恩恵を受けるのは投資できる人だけだ。「資産所得倍増プラン」というのは聞こえがいいが、金持ち優遇プランになっている。

岸田政権は、小手先の政策だけではなく、未来についても考えないと、円安とともに日本は沈んでしまうだろう。

田内 学 お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家

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たうち・まなぶ / Manabu Tauchi

お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。

著書に「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリとリベラルアーツ部門賞をダブル受賞した『きみのお金は誰のため』のほか、『お金のむこうに人がいる』、高校の社会科教科書『公共』(共著)などがある。

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