激動予測 「影のCIA」が明かす近未来パワーバランス ジョージ・フリードマン著/櫻井祐子訳 ~米大統領が心得るべき近未来勢力均衡策
本書の主題は「米国が世界で力を行使しつつ、どのようにふるまうべきか、またその一方でどのようにして共和国を守るべきか」にある。ルネッサンス期のニッコロ・マキャベリが、覇者になると期待したチェーザレ・ボルジアに捧げた『君主論』になぞらえられた本書は、米国大統領、具体的には現大統領およびその後継者に対する、今後10年の外交指南書だ。
キーワードは「勢力均衡」であり、「力のなんたるかを知り、道徳的な核をもつ指導者」が著者のいう「マキャべリ流の大統領」だ。それを実践した人物として、リンカーン、F・ルーズヴェルト、レーガンを挙げる。彼らの道徳的核が何であったかは明らかにされないが、外交史上の事績は冷徹な権謀術数に基づいていたとする。
タイトルから期待される10年後の予測では、第4章「勢力均衡を探る」が面白い。著者が考える地域の重要勢力、イラン、ロシア、ドイツ、インド、ブラジル等に関する記述は、敵との融和、敵の敵の育成といった観点で、著者のいうマキャベリズムの真骨頂だ。イスラエルについては独立以来、米国と蜜月という神話を否定している。そのイスラエルに対しても静かに距離を置け、と著者はいう。日本と中国については、現状維持でよいと主張しているが、これには含みがありそうだ。「日本経済の復活を遅らせるものは、時間稼ぎになるという点で、何であれ米国に役に立つ」と述べている点からもうかがえる。
巻末近くの今の米国に必要とされる四つの要件、「状況を冷静に理解する国民」「現実を米国の価値観と折り合わせる覚悟のある指導者」「力と道徳律を理解する大統領」「成熟した国民」は、重複はあるにせよ、国民と指導者のあり方を考えさせるうえで興味深い。
George Friedman
米インテリジェンス企業ストラトフォー創業者。顧客は各国大企業、米国政府機関や外国政府。1949年生まれ。ニューヨーク市立大学卒業後、コーネル大学で政治学博士。ルイジアナ州立大学地政学研究センター所長などを経て、96年に同社を創設。
早川書房 1890円 356ページ
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