「東京メトロ」上場前に知っておくべき注目点 2つの新線、不動産開発、都営地下鉄との関係…

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新型コロナが猛威を振るっていた時期、東京メトロの経営はさんざんだった。コロナ前の2018年度、東京メトロの輸送人員は私鉄トップの27億6616万人で、2位東急の11億8931万人を約2.3倍上回っていた。それがコロナ禍の2020年度は34%減少の18億1948万人に落ち込んだ。同年度の連結決算は売上高が31%減の2957億円、営業損益は前年度の839億円の黒字から402億円の赤字に転落した。

そんな状況も終わりを告げた。2022年度の営業利益は277億円とようやく黒字に復帰した。2023年度は4~6月の3カ月で217億円の営業利益を実現できた。4~12月の9カ月の営業利益は646億円でコロナ前のペースに戻りつつある。コロナ禍から脱却できたという状況も上場を後押しすることになる。

非鉄道事業の拡充は?

東京メトロは上場に関して正式なコメントはしていないが、山村明義社長は、「上場によってさらによい会社になると信じており、いつでも上場できるよう、事業を磨き込み、経営のガバナンスを強化している」と、かつてインタビューで話している。上場が本決まりになれば、上場前に投資家が納得するような成長戦略を示さなくてはいけない。2つの新線建設は輸送人員を増やすという点で投資家への訴求ポイントとなるだろう。

東京メトロ 山村明義社長
銀座線渋谷駅リニューアル完成日、電車に乗る東京メトロの山村明義社長(撮影:尾形文繁)

そして非鉄道事業の拡充も必要だ。不動産、流通、レジャーなど経営の多角化が進む大手私鉄他社と比べると、東京メトロの2018年度連結売上高に占める鉄道事業の割合は88%。鉄道頼みの経営から脱却することも投資家から求められるはずだ。

地下鉄という性格上、東京メトロは地上に広大な土地を保有しているわけではない。しかし、小田急電鉄と進めている新宿駅西口、東急不動産と進めている明治神宮前などの開発計画に取り組むほか、既存物件を私募リートに売却し、得た資金を再投資するなど、不動産事業の強化・拡充を急ぐ。

気になるのは都営地下鉄との関係だ。猪瀬直樹氏が都知事を務めていた2010年代、東京メトロと都営地下鉄を一元化するという構想があり、その一環として、九段下駅の東京メトロ半蔵門線と都営新宿線のホームを隔てていた壁が撤去されている。「都営地下鉄の運営やサービスは非常によい」と話す東京メトロ関係者もいる。

しかし、一元化には都営地下鉄の累積欠損がネックとなる。その金額は2022年度で2151億円。大江戸線の開業により輸送人員を増やし、その額は減少傾向にあるが、長期借入金2450億円など負債も多く自己資本比率は26%だ。一方の東京メトロの自己資本比率は31%。大手鉄道他社と比べると優等生の部類に入る。

現時点の経営一元化は東京メトロの財務バランスを悪化させる。都も東京メトロ株をできるだけ高く売却したいはずで、そのためには東京メトロの円滑な経営を阻むリスクは事前に排除しておきたいところだ。いまさら一元化論を蒸し返すことはないだろう。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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