約4割は学校が「いじめの重大事態」を認知できていない

文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、福岡県のいじめの認知件数は、2022年度で1万6587件。2017年度の8926件と比較すると、5年間で約7600件と大幅に増加している。

全国的に見ても、2022年度のいじめの認知件数は68万1948件と過去最多だ。さらには子どもの生命、心身、財産に重大な被害が生じた疑いのある「いじめの重大事態」の件数も過去最多となり、そのうち約4割は学校がいじめと認知していなかったという結果が出ている。

こうした事態を重く見た福岡県では、いじめの重大化・長期化を防ぐために2023年11月1日に「福岡県いじめレスキューセンター」を開設。公立か私立かを問わず、県内すべての小中高生を対象とし、学校には相談しづらい、あるいは、学校に相談したけれど第三者の支援がほしいといういじめの相談に対応している。

担当するのは、こども家庭庁のカウンターパートとして昨年4月に新設された部署「福祉労働部こども未来課」だ。同センターは、こども家庭庁の令和5年度事業「地域におけるいじめ防止対策の体制構築の推進」の委託費で運営されている。同課居場所づくり係長の宗健一郎氏は次のように語る。

「これまでは学校と教育委員会がいじめ問題に対応してきました。認知件数の増加は、それだけ学校側が積極的に対応していることの表れであるとも言えますし、今後もいじめ問題は学校が対応するという基本は変わりません。しかし、約4割は学校が『いじめの重大事態』と認知できていないという現状を踏まえると、早期発見・解消を図るには、学校外の立場からも対策に取り組む必要があると認識しています。学校や教育委員会と連携を図りながら、県総がかりでいじめ問題に対応したいと考えています」

専門家が相談に対応、3カ月後にはフォローアップも

同センターでは、宮城県仙台市のいじめ等相談室「エスケット」の支援スキームを参考に、専門家が対応する体制を構築したという。

相談者に直接対応するのは、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格を持った支援員で、2~3名を常時配置している。また、専門員として非常勤で弁護士を4名置き、相談を受けた後の対応を話し合う週1回の検討会議において助言を受けている。

そのほか会計年度職員の事務職員1名が、相談者の要望に応じて学校側とやり取りする場合の窓口業務を担当。学校に訪問する必要がある場合は基本的に支援員と事務職員が出向く方針だが、ケースによっては弁護士が訪れることも想定している。

電話とメールでの相談が多いが、希望や必要に応じて予約制で面談も行う。相談者のほとんどは保護者だが、相談内容を学校に伝えるかどうかなど、当事者である子どもの気持ちや考えを尊重しながら確認を繰り返し、慎重に対応しているという。学校に相談者の要望を知らせる際も、事前にその旨を教育委員会に共有するなど連携を図っている。

予約制で面談も行っている

「教育庁によるLINEや電話での子どもの悩み相談窓口がありますが、そこでは傾聴と助言が中心。一方、いじめレスキューセンターでは、相談者の要望があれば、学校とやり取りを続け、いじめの解消を目指して対応を行っています。いじめは簡単になくなるものではないのですが、相談者の最後の相談から3カ月後をメドに、その後の状況について電話でフォローアップするのも大きな特徴といえます」

見えてきた「第三者の支援」に対する強いニーズ

2023年11月1日の同センター開設初日には、10件以上の相談があった。その後も日々10件程度の相談があり、相談件数は開設後の2カ月間で延べ279件に上った。校種や学年を問わず満遍なく相談があるという。

「1人の相談が1回で終わることがないケースはよくあり、実件数でいえば97件ですが、たった2カ月でこんなにも相談が寄せられたことにかなり驚いています。また、当初は学校に相談しづらいケースが多いと考えていたのですが、実際には、学校に相談したけれど納得がいかないため第三者の支援がほしいといったケースが多く、私たちのような立ち位置に対するニーズの強さを実感しています」

例えば、「学校にいじめの相談をしたが、単なる友人間のトラブルとして捉えられている」という相談があった際は、同センターが、学校に相談者の思いを伝えた。連絡を受けた学校は調査を開始し、その事案はいじめとして認知されたという。

このような場合、「きちんと学校が対応してくれる」と安心する相談者もいるが、同センターに寄せられる相談は、そもそも学校と保護者との関係がこじれているケースも多いと宗氏は明かす。

「福岡県は、寝屋川市のように子どもたちをいじめから守るための条例などはつくっていないため、加害児童の出席停止を勧告するなどの強い権限は持っていません。ときには加害者の謝罪を求めたいというケースなど学校側が苦慮する事案があるのですが、私たちもあくまで第三者として『お伝えする、お願いする』という立場にあり、対応が難しい事案は多いです。また、『加害児童を指導した』と学校から連絡があったとして、それを解決とみなしてよいのか。実際、いじめはなくなったものの、不安があって学校に行けないということで相談支援が続いているケースもあります。何をもっていじめの解消とするかは難しく、粘り強くご相談に対応していく必要があると考えています」

昨年5月、福岡市の私立高校に通う女子高校生が遺書を残して自殺した問題では、福岡県の担当部局内の連携が取れていなかったほか、学校が県に報告せず、9月まで重大事態認定に至らなかったという経緯がある。これを受け、県は11月、県と県教委が学校や保護者、警察などからいじめの情報を得た際、県の重大事態再調査委員会を所管する部署と情報を共有するほか、学校に対して1週間以内に報告書を提出するよう求めることなどをルール化した。今後も県は、いじめの対応に注力する方針だ。

「『こどもまんなか社会』を考えるうえでも、いじめの問題は看過できるものではありません。年度途中にいじめレスキューセンターの設置に踏み切ったのも、それだけ県が解決に注力しようとしているということ。今後いろいろな課題が見えてくると思いますが、学校と保護者が膠着状態にあるケースは多く、第三者の私たちが入っていく意義は大きいと考えています」

(文:國貞文隆、写真:福祉労働部こども未来課提供)